ヒーロー家族

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「お父さんは世界を救ったのよ」 母さんの口癖には、正直もううんざりだった。 「そうだね、また来週くるからさ」 俺は病室から出ると、職場へと戻る。仕事をしているか、病院にいるか。この二択がここ数年の俺の行動範囲だ。 「お母さんの具合はどうだった?」 職場に戻ると上司が聞いてくる。 「あぁ、相変わらずです…」 「そうか…、今日はもう帰っていいぞ、というか明日からリフレッシュ休暇だ」 「えっ?いいんですか?」 「いいもなにもお前この一年まともに休んで無いだろ!それに前もリフレッシュ休暇だと言ったのに次の日普通に出社しただろ!?今回は絶対出社するなよ!一週間ぐらい休め!」 「それは…フリですか?」 「前フリじゃねぇよ!普通に休め!」 今回は上司命令に素直に従うことにした。ただ、急に大型連休を貰ったところで特段やることもなく、遊びに誘う友人もいない俺はやっぱり会社に行こうと思い始めた時だった。家族しか知らないスマホが鳴った。 「もしもし、姉ちゃん?」 「私しかいないでしょ?」 「仕事はどう?」 「あぁ…相変わらずだよ…今日は休みなんだ」 「そうなの?珍しいわね」 俺は父さんの次に姉ちゃんが嫌いだ。 「姉ちゃんは?」 「私はちょうど今敵を倒したところよ」 「さすがヒーロー様だね…」 「そんなことより、父さんが決断したわ」 「えっ?…」 「やっぱり強大な力を持ってる悪は倒すって…」 「本気で言ってるのか?!」 「ヒーローとして自分の命に変えてでもって…父さんも死ぬ気みたい…」 「なんで!?今のままでもいいじゃないか!?姉ちゃんはほんとにそれでいいと思ってんの!?」 「…ヒーローなんだから仕方ないじゃない!」 「ヒーローってなんなんだよ!」 「じゃあ…伝えたからね」 電話を切る直前の姉ちゃんの声は震えていた気がした。俺は職場へと向かっていた。 「お前?!休みだって言ったろ!」 「父さんが…来ます…」 「まさか…?!」 「母さんを…殺しに…」 俺の母さんはいわゆる悪の親玉なんだそうだ。そんなことは知らずに普通のどこにでもいる母さんだと思っていた。小さい頃はよく怒られていたし、反抗期にはよく喧嘩もしたけど、最期は決まって笑顔で迎えてくれる優しい母さんだ。 「お父さんは世界を救ったのよ」 父さんが仕事から帰ってくると決まって母さんは俺達に笑顔でそう言っていた。そのときは父さんを誇らしく思い、俺も幼いながらヒーローになりたいと思い始めていた。父さんの背中を追いかけ、ヒーロー試験を受ける18歳のときに俺の人生は180度変わった。 「なにしてんだよ!?父さん!?」 「これは仕方ないことなんだ」 血まみれになった母さんが横たわっていた。 何を言われても俺には信じられなかった。俺の中の母さんは怒ると恐いし、口うるさいこともあったけど。悪の親玉だとか、正義の為だとか言われても、血まみれで苦しそうにしている母さんを見て、仕方ないなんて言えるはずがなかった。 俺は怒りに震えつつも泣きながら、母さんに覆い被さり、父さんを侮辱した。 「泣かないで、母さんが悪いのよ、母さんがいるだけで悪い力を強力にしちゃうのは解ってた」 「何言ってんだよ…」 「お父さんを恨まないで、これがお父さんの立派な仕事なんだから」 「全然意味わかんねぇよ…」 母さんはにこっと笑った。 「これでまた世界を救ったのよ」 それから俺は自分の人生を掛けて母さんを守ると決め、完全隔離を条件に極秘に母さんを収用する施設で働いていた。 「部屋に入れてもらおうか」 「父さん…」 「事情は娘から聞いてるな」 「今までうまくいってたじゃないか?!なんで?!」 「お前はヒーローじゃないから現状がわかっていない」 「現状って…?」 「ここ最近で明らかに敵の力が増している…民間の不安を高めないようにしているが、実際に敗北しているヒーローも多数いるのだ」 「そんな…」 「そしてそのエネルギーの源である優子のもとへと敵が集まろうとしている」 「だからって何もしてない母さんを殺すのか!?」 「仕方ないことなんだ…」 「仕方ないってもううんざりなんだよ!ヒーローならもっと強くなればいいだろ!」 「残念ながら、多数いるヒーローの中でも俺がまだNo.1なんだ…がフッ…」 「…??怪我してるのか…?」 「ここで止めなければ…決断しなくて…世界が終わる…」 怪我からくる冷や汗なのか、父さんの頬が濡れていた。 「父さん!急激に敵が来る気配が!私達だけじゃ食い止められない!」 ぼろぼろになった姉ちゃんと多数のヒーローが飛び込んできた。 「お前たちには辛い思いをさせて申し訳ない、母さんと一緒に世界を救わしてくれ」 父さんが母さんの部屋へと入る。母さんはすべてを解っていたかのように父さんを笑顔で迎え入れた。 「優子…愛している…」 父さんが何かを呟いていた。 「所長!暗黒解除!!」 「おっ、おう!」 ガシッ 母さんを貫こうとした拳を俺はしっかりと握りしめた。 「お前…その姿は…」 「俺はただ毎日母さんの見張りをしていた訳じゃない、母さんを守るために日々鍛錬していた、敵からもヒーローからも」 「これは…どういうことだ所長?」 「彼はあなたの息子だけあってヒーローの素質は充分にありました、きっとあの日試験を受けていれば主席で受かっていたでしょう、さらにあなたの息子であると同時に彼女の息子でもある」 「なぜ…悪の兆候はみられなかったが…」 「それは暗黒ギアによる制御の為です、ただこの技術はまだまだ開発途中で未知数な部分が多く、彼には言い方は悪いですが実験台になって貰っています」 「詳しい話はあとにして、とりあえずここら辺の敵は俺がぶっ殺してやるから安心しな!」 「多少口が悪くなるのは検証済みです」 「ヒャッホー!敵も嫌いだけどヒーローも好きじゃねぇ!俺様はダークヒーローだからよ!」 奇声と共に侵入しようとする敵を一瞬で一掃する姿は一般的なヒーローとは異質なものと感じさせるには充分だった。 「ふぅ、時間切れか」 「お前、そんな力が」 「まだまだ課題はあるけど、そろそろ世代交代じゃねぇかな?」 ふっと父さんは鼻で笑った。 「それに母さんがいれば俺はどんな敵よりも強くなるし、No.1の父さんの息子ならどんなヒーローよりも強いはずだろ?」 「そうかもな、英雄(ひでお)」 「父さんは知らないかもしれないけど、最近はダークヒーローが流行ってるんだぜ」 それから十数年後 「お父さんは世界を救ったのよ」 「でもパパって悪役っぽいよね」
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