尼崎くんと夏の夜

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「今度は私からにして!ロジカルパナマ!パナマと言ったら運河!」 「運河と言ったら水路!」 「水路と言ったらふーね!」 「ふーねと言ったら冒険!」 「冒険といったらワ~クワク!」 「ワ~クワクと言ったら……」  ────しまった! 「こーい!」 「いやいやいやいや!!」  どういうこと!  なんで最後は絶対に恋に行き着いてしまうの! 「また俺の勝ちね」 「違う!狡い!そもそも船と言ったら冒険ってのがおかしい!」 「おかしくないよ。海賊って知ってる?」  抗議するだけ無駄だと悟り、再びビールを一口。 「もういい!もう一回!ロジカルパナマ!パナマと言ったら暑い!」 「暑いと言ったらバテる!」 「バテると言ったら食欲わかない!」 「食欲わかないと言ったらこーい!」  また出た!でも今度は私にだって策がある。 「鯉と言ったらいーけ!」  恋を鯉と認識する作戦。 「池と言ったら庭園!」 「庭園と言ったら綺麗!」 「綺麗と言ったらこーい!」 「ああああああ!」  だけど尼崎くんは、一枚も二枚も上手だった。  レジャーシートに項垂れる私を、彼はくすくす笑った。 「もうおしまい!もうすぐ花火始まるし」  私の一言に冷めたのか、彼もしばらく黙った。  なんでこんなことで微妙な空気になってしまうの。  今日は尼崎くんと初めての花火大会だったから、新しい浴衣を買って、着付けも練習して。  髪もメイクも二時間はかけて張りきって来たのに。  ……今日こそ、告白するか、もしくはされるかの進展があるかなって、ドキドキしてたのに。  ロジカルパナマって、……何。 「……ごめん。もう一回だけ、付き合ってよ」  急に真面目な顔で懇願する尼崎くんに、このまま意地を張るのも虚しくなってきて、私はムスッとしながらも肯いた。 「ありがとう!じゃ、行くよ!ロジカルパナマ!パナマと言ったらうーみ!」 「うーみと言ったら青い!」 「青いと言ったら青春!」  また来たぞ。そっちに持ってこうとしてるな。  でも、もういいや。  彼の好きなように試合を運ぼう。 「青春と言ったら甘酸っぱい!」 「甘酸っぱいと言ったら……」  来るぞ来るぞ。  恋。 「……少女漫画」  ……え?  予想外の展開に呆然とする。  恋と言わない。  どうして言わないの。 「少女漫画と言ったら……」  ゲームセット。 「……恋」  私の方が、恋と言ってしまった。  尼崎くんはにっこりと微笑む。 「こーいと言ったら君が好き」  赤らんだ顔の尼崎くんの背後に、鮮やかな大輪が打ち上がる。 「君が好きと言ったら」  花火の音と歓声が収まるのを少し待ってから、私も微笑み返した。 「君が好きと言ったら、私も好き」         【おしまい】
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