尼崎くんと夏の夜

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「今日は君に、とっておきのゲームを紹介したいと思う」  ちょっと不思議で、面倒くさい尼崎くん。  どこが不思議で、どこが面倒くさいかと言うと、 「それは、ロジカルパナマというゲームさ」  こういうところ。 「簡単に説明すると、所謂連想ゲームってやつ。パナマから始まって、お互いが次に連想する言葉を出し合っていくんだ。途中で言葉に詰まったり、頓珍漢なことを言った方が負け」 「うん……」  正直、受け入れるかどうか迷った。  すっかり日も落ちた川の土手。  レジャーシートに並べた焼きそばやかき氷も全部食べ終わってしまったし、まだ花火が打ち上がるまでは時間がありそう。  このままだんだん良い雰囲気になるかと期待していたのに、なんて内心拗ねながらも、暇つぶしに彼の言うロジカルパナマとやらに付き合うことにした。 「じゃあ、俺からね。……パナマと言ったらうーみ!」 「うーみと言ったらなーつ!」 「なーつと言ったらこーい!」 「恋!?」  尼崎くんが突然甘酸っぱい方向へ持っていくので、ドキッとして思わず次の言葉に詰まってしまった。  彼は勝ち誇った顔で笑う。 「一回戦は俺の勝ちね」  なんだか腹が立ってきた。  もわっとした温かい風と、草いきれの匂い。  花火を待つ人達のはしゃぎ声。  私達は、何故か謎のゲームに夢中になる。 「じゃあもう一回。パナマと言ったらうーみ!」 「また!?」  思わずまたゲームを止めてしまった。 「いやいやいや。海、また?」 「同じ言葉を使ってもいいルールです」  得意げになる尼崎くんに、ますます腹が立ってくる。 「仕切り直しで。俺から行きます。ロジカルパナマ!パナマと言ったらうーみ!」 「うーみと言ったら泳ぐ!」 「泳ぐと言ったらプール!」 「プールと言ったら楽しい!」 「楽しいと言ったらこーい!」 「いやいやいやいや!」  思いきり手を振って尼崎くんにツッコむ。 「はい、また俺の勝ちね」    腸が煮えくり返って、缶ビールを一気に煽る。 「もう一回やろう!」  気づいたら、私の方が熱くなっていた。  絶対に「恋」に持っていかせない。  尼崎くんは楽しそうに笑う。
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