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【 指先テクニック 】
どれくらい彼に顔を触られていただろう。
彼の指先テクニックが気持ち良過ぎて、目を瞑って全てを捧げている自分に気付く。
「ありがとう。ねぇ、花ちゃん。これから僕の仕事場で特殊メイクしてみてもいいかな?」
私はゆっくりと目を開けると、とろけるような目でコクリと頷いた。
(あれっ? 私、遼さんにいつの間にか誘われてる……)
彼は爽やかにニコリと笑うと、私の手を引きながらそのベンチから立ち上がった。
――車で30分ほど走った住宅街の一角。小さなガレージのような所に彼の仕事場があった。
シャッターを開けると、そこには彼の仕事道具や様々な特殊メイクを施した作品がズラリと並んでいる。
「うわぁ~、遼さん、すごいですね。これ全部、遼さんが作ったんですか?」
「うん、そう。まだまだ勉強中だけどね。でも、花ちゃんが使っているものよりかは、リアルに作れると思うんだ」
その遼さんの作ったという特殊メイクの作品が、まるで生きているような錯覚を起こすほどリアルにこちらを見つめていた。
老人や女性、猫やオオカミ、何やらグロテスクな化け物らしきものまで並んでいる。
「さあ、ここに座って。今から君の口を大きくしてあげるから」
「お手柔らかに……」
丸い回転するイスに座ると、早速彼が道具箱から不思議なものを取り出した。
ボールのようなものに、何やら液体をいくつか混ぜて、コネコネしている。
そして、その混ざり合ったものを私の頬へ五本の指で器用にペタペタと塗り始めた。
私はまた、彼の華麗なる指先テクニックに、変な声が出そうになるのを抑えながら、心地良さを感じて目を瞑っていた。
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