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【 夏の夜 】
どれくらい時間が経っただろう。
いつの間にか、気持ち良くなって眠ってしまっていた。
「あれ? ここはどこ?」
目を開けると、ガレージの天井が見える。気付くといつの間にかベッドの上に寝ていた。
彼がひょっこりと横から顔を出し、微笑んでいる。
「おはよう、花ちゃん。よく眠っていたね。もう、メイク終わったよ」
「えっ? 私、寝ちゃったんだ……」
「うん、ぐっすり眠っていたから、おかげでメイクし易かった。ありがとう」
そう言うと、彼は手鏡を取り出して、私に渡してくれる。
「自分の顔を鏡で見てごらん」
「うん……」
恐る恐る自分の顔を覗く。
すると、鏡に映った私の口が、ザックリと耳元まで裂けていた。
「きゃーーっ!」
思わず大きな声が出てしまった。
「ははは、大丈夫。作り物、特殊メイクだから」
「へっ?」
自分の裂けた口を恐る恐る触ってみる。
「ほ、本当だ。痛くない。作り物だ……」
「でしょ? どう? その特殊メイクは?」
「うん、すごい。リアルで本物みたいに口が裂けてる」
「これで脅かしたら、お客さんもビックリすると思うよ」
「うん……」
鏡越しの特殊メイクを施した自分の顔を見つめながら、しばらく指でそのデコボコした感触を味わっていた。
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