【 私、きれい? 】

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【 私、きれい? 】

 令和の時代。もう誰も私のことを怖がらない。  世の中に新型コロナウイルスが蔓延し、皆マスクをする時代。  私はその中に完全に溶け込んでしまった。 「私、きれい?」 「知らねえよ!」 「私、きれい?」 「ははは、ウケる~!」  この遊園地のお化け屋敷『ダークマター★ドーム』にやって来るお客さんは、皆私と同じようにマスクをしている。  だから客なのか、お化けなのか、もはや区別が付かない。  ただ、私の格好が夏だというのに、赤いコートを着ているということだけが唯一の違いか。  そして、マスクの奥に隠された秘密。  そう、定番中の定番。『口裂け女(くちさけおんな)』だ。  この遊園地のアルバイト募集で、私に与えられたお仕事。  それが、お化け屋敷での『口裂け女』の役。  私の髪が黒くて長いこと。たまたま面接で着ていた服が赤かったこと。  そして、名前が「花子」と学校の怪談話で出てくる名前と同じだったこと。 「花子さんですか。じゃあ花子さんは、お化け屋敷担当でお願いします」  これは後でチーフの宮島さんから聞いた話だ。
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