【 変なお客さん 】

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【 変なお客さん 】

 一度、咳払いをしてからもう一度聞く。 「私、きれい?」 「う~ん」  オモチャの柔らかい包丁を取り出して脅かしてみる。 「殺してやろうか~!?」 「う~ん」  そのお客さんは、(あご)に手を当て、尚も私の顔をじっと見ている。 「逃げないと、殺してしまうぞ~!?」 「う~ん」  その男性は、更に私に近付き、私の口元を凝視する。 (何だ? このお客さんは?)  距離にして10センチほど。もうすぐで私のこの裂けた唇に触れてしまいそうな距離。  暗闇の中、ふたりきりの沈黙が続く。 「……」 「……」  距離は更に縮まり5センチほど。そろそろヤバイ距離。  その時、彼の右手の人差し指が、私の裂けた唇に触れた。 「きゃっ!」
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