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【 マスクの女 】
当然、口は裂けていない。口裂け女の口は作り物でマスクのように耳にかけて付けているだけだから。
でも彼は、私の口と頬の辺りをじっと眺めて、なぜか指で何か測っている様子。
「ねぇ、ちょっと触ってみてもいい?」
「えっ? 触るんですか?」
(この人、何言ってんの? 初対面の人の顔に普通触る?)
「ダメかな? ちょっと柔らかさとか、形とか念のために確かめておきたくて」
「えっ? 柔らかさ? 形ですか?」
「どうしても君の口が裂けたようにリアルにしたくてさ」
「はぁ? 私の口は裂けたりしません。あれは作り物を上から付けているだけです」
「ははは、それはさすがに分かってるよ。あの口裂けをもっとリアルに作りたくってさ」
「も、もしかして、遼さんって……」
「そう、僕は特殊メイクアーティストなんだ。だから、先ほどの作り物よりももっとリアルに、花ちゃんの口に合ったものを作れると思うんだ。だから、ちょっとだけ触ってみてもいいかな?」
「は、はぁ……」
私はまたしても彼の言葉に、首を縦に振っていた。
そして彼、遼さんの細く長くしなやかな指が私の頬と唇に触れる。
(あっ)
すると、ピクリと体が反応してしまった。
目の前の綺麗なブラウンの瞳をした彼を見ていられず、思わず目を閉じて、熱くなった自分の顔を彼に委ねた。
彼の指先が唇に触れる度に、感じてしまう。
唇から頬へ、そして、耳元から首元に指が進むと、ジ~ンと体が反応する。
(ああ~、何だかとても気持ち良くなって来たかも。遼さんの指先が心地いい……)
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