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「どこにいるの、深山さん心配してるよ」
「もういいの」
「いいのって、なにが」
電話の向こうで波の音がした。風も強い。
心当たりがあった。
あの、兄の骨を撒いた……。
「深山さんはいい人だけど、きっとこの先どんな幸せを手にしても、私は自分を許せなくなると思う。だから、もういいの。
電話に出てくれてありがとう。
私、拓海さんと一緒になる」
「まって、ねぇ百合!」
叫ぶように言うと、波の音が一瞬止んだ。
「ごめんな、晴海」
数年ぶりに聞いた声は、まごうことなく兄のものだった。
それを最後に、通話は切れた。
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