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夢で見た世界
第四の壁は、
舞台と客席を分ける一線のこと。
プロセニアム・アーチ付きの舞台の正面に築かれた、
想像上の見えない壁であり、フィクションである演劇内の世界と
観客のいる現実世界との境界を表す概念である。
(Wikipedia参照)
私の夢の中で「おやすみ」を終えたら、現実に「おはよう」をする。
その挨拶は零時から地続きの、新たなる世界への、新たなる隷属の敬礼である。
まだ夢はヘットギアの中にある、戻るのはまた帰るときだから
帰路のコンセントを抜く。
生活のような痕跡にまみれたこの脱け殻の部屋をまた、
私が生きていた証拠のようなものを今日も残していく。
「覗き見は愉しいかい?」
僕の頭のなかをそんなに覗いて愉しいかい?君に言っているんだ。
その画面という第四の壁の向こう側の、君にね。
なぁ、やっぱりこんなの悪夢なんだろ?僕のいるこの世界も、僕の人生も、
僕の体も、心臓も、心も、頭も、考えているこの全て、
今、君に言っているこの行為も。全て悪夢じゃないか、なぁ応えてくれよ、
「こんな悪夢、バクみたいに喰ってやる!こんな壁、僕が壊してやる!」
部屋には、響かない残響だけが残った。
私はいつものように、誰か、何か、よくわからない認知不可能なものに、
自分をこうさせた責任を訴えかけ転嫁しようとしている。
栄養充足食品自動生成機が、灰色いっぱいのデスク回りに、
カラフルなペースト食品で彩りを与えている。
いつものように、スプーンで摂っている。無機質が三大欲求を満たしていていた。
メタバースのスシというもののほうが、
よっぽどそれを満たすのにふさわしい気がしてきた。ただそれがどんな食感かは、
よくわからない。早く食感デバイスの開発は進まないだろうか、
それかいっそサイボーグ化しようか、まぁそんなポイントがあったら、
高級培養ステーキがいくらでもほう張れるんだろうが。そんなことができるのは、
高カーストの社会貢献性が高い連中だけか。私のカーストはアベレージより、
220ポイント低い、780ポイント。だが、社会実用性は1200ポイントと割りと高いため、
総合ポイントは1980ポイント、アベレージの範疇だ。
理想の社会民主主義のディストピアとなった。
2099年7月31日、昔はこのぐらいの時期は夏と言うらしい。
正直、温暖化でどこもかしこも常夏のこの地球では必要のなくなった言葉だ。
起きてからろくなことはも考えていないうちに食事は終わった。
というよりこの体における必要なものの摂取が終わったのだ。体に、
精神衛生に良い毒を飲まされてから僕の仕事を始まる。さて、
これからタスクをしなければならない。メタバースエンジニアとして。
私はこの仕事を14の時始めた。私は幸か不幸か、
物心つく頃にはこの世界と周りが狂っていたことを感じていた。
いわば精神の病。しっかり言うなら周りと自己との乖離に悩まされていた。
自分は他人のことがわからない。理解できないというより、
理解もしたくなくなってしまった。そして、逃げたかった。
その非常口はメタバース。仮想空間、僕が夢と呼んでいる世界に行くことだった。
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