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望みに届け。
もっと、遠くへ。
……けれども生きている間に、月へ行くことは叶わない。そう悟ったのは、夫の死に顔に別れを告げた時だろうか。
ノストラダムスの予言は外れたけど、全ての人に死は等しく迫って来るのだ。命を刻む砂時計が落ちきったら誰もがジ・エンド。
さあ今、この手を離したら……どうなる?
フク子は試したい衝動に駆られる。
首に巻いていた萌黄色のスカーフが、宙に舞った。
透かし模様の布は、橙色の光を映しながら天へひらりと飛んでゆく。
重苦しく蓄積された人生が、走馬灯のようにフク子の中を駆け抜けて、背中を押す強い風が吹いた。
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