第101話 フク子さんと惑星ブランコ (テーマ『浮遊』)

5/6
前へ
/77ページ
次へ
 望みに届け。  もっと、遠くへ。  ……けれども生きている間に、月へ行くことは叶わない。そう悟ったのは、夫の死に顔に別れを告げた時だろうか。  ノストラダムスの予言は外れたけど、全ての人に死は等しく迫って来るのだ。命を刻む砂時計が落ちきったら誰もがジ・エンド。  さあ今、この手を離したら……どうなる?  フク子は試したい衝動に駆られる。  首に巻いていた萌黄色のスカーフが、宙に舞った。  透かし模様の布は、橙色の光を映しながら天へひらりと飛んでゆく。  重苦しく蓄積された人生が、走馬灯のようにフク子の中を駆け抜けて、背中を押す強い風が吹いた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加