0人が本棚に入れています
本棚に追加
二人は片側二車線の道路の真ん中を並んで歩いていた。車なんて一台も通らない。周りを見れば、コンビニやファーストフード店、その他数多くの店が並んでいるが、中には誰もいない。窓ガラスが割られ、崩された内装を遠巻きに見ながら、二人は歩いていく。
「花火見に行くって、もうやってないよ。こんな状況なのに。あのチラシだって今年のものじゃないよ」
「花火が残ってるかもしれないじゃん」
「残ってたとしてどうすることもできないでしょ。打ち上げる人もいないし」
「二人で打ち上げればいい」
「いやいや、素人には無理でしょ。大体花火ってシケるじゃん。打ち上げられないよ」
少年の説得に少女は足を止める。それに合わせて少年も止まる。
「私、花火って見たことないの。外なんてほとんど出られなかったから」
「……」
「世界がこんなことになったけど、私の世界はその時、初めて色がつき始めた。だからね、思いっきり私の世界を満喫するの!」
「…そう」
「それとね、花火も10年くらいは保つんだよ。ちゃんと保存したら、50年!」
振り返る少女は笑っていた。こんな世界に嘆くどころか、楽しもうとしている。そんな少女を目の前にして、少年はもう何も言わなかった。少女の隣に立ち、手を引き、歩き出した。
花火大会の開催場所とされる川に着いた。一級河川に指定されているこの川はどこまでも長く続いていた。少年の記憶では、川はかなり濁っていた覚えがあるが、今は随分綺麗だった。川底は見えないが、それでも大分マシだった。時刻は夕刻に差し掛かった辺りか先程より気温が下がっていた。
「花火ないね」
「まぁ、大会はここでやるけど、花火は別の場所に保管してるだろうね」
「…だれか持ってきてくれないかな~」
「それはさすがに…」無いだろうと言いかけたその時だった。
ガラガラと何かを引く音がする。周りに雑音が限りなく無い世界でその音はとてもよく聞こえた。
音の方向を見ると、正体が姿を現した。リヤカーだった。そしてそれを引いてる誰かがいた。
少女は駆けだした。少年も慌てて追いかける。二人はリヤカーの前に飛び出した。
リヤカーを引いていたのは、人型ロボットだった。所々錆びており、歩きもぎこちない。顔に当たる部分には液晶がついており、そこには驚きの表情が写っていた。
最初のコメントを投稿しよう!