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ロボットは二人を交互に見比べる。しばらく静止した後に、
『おぉっと、音声機能が切れてました』大げさに両手を上げながら、そう言った。
「初めまして、ロボットさん」
『初めまして、お嬢さん』少女の挨拶をロボットは気さくに返す。そして、少年の方を向き、会釈をする。
『人間がまだいたとは驚きです。てっきり全て滅んでしまったのだと』
「ど、どうも」少年もぎこちなく頭を下げる。
「旧式ロボットってまだいたんだね」
『ロボットなら他にも探せばいますよ。私みたいな旧式はかなり少ないと思いますが』
ロボットの顔の液晶がチカチカと点滅する。動くたびにガチャガチャと音が鳴る。随分古くなっているのが見て分かった。
「ねぇねぇ、そのリヤカーの中って何?」
少女がのぞき込むリヤカーにはブルーシートがかけられていた。ロボットはリヤカーを一瞥すると、
『これは花火です。花火大会用の』ブルーシートをポンポンと叩き答えた。
「花火!!?」
少女はリヤカーにズイッと近づく。そしてピョンピョンと飛び跳ねながら、ロボットの手を取った。
「すごい!すごい!あなた、とっても素敵ね」
少女の賞賛にロボットは照れたように首を傾げた。液晶の顔文字が照れた表情に変わる。「あなたお名前は?」
『私は型番号が87なのでヤシチと親方から呼ばれてました』
「親方?」
『私がお手伝いさせていただいていた方です。花火職人でした』
「てことはお弟子さん?」
『えぇ、そういった肩書きがプログラムされておりました』
「これ、どこに持っていくの?」
少女とロボットの会話からすっかり蚊帳の外だった少年は、花火が入っているリヤカーを見て訊ねた。
『およそ1km歩いた先にある打ち上げポイントまで』
「そ、その…、僕たちも一緒に行っていい?」
『もちろんですとも』
ヤシチは再びリヤカーを引き、河川敷を歩き始める。二人はその後ろを押しながらついて行った。
三人を照らす夕日は次第にその光を弱め、やがては山の向こうに消えていった。
辺りが暗くなると、前を歩くヤシチの胸部にあるライトが点灯する。河川敷にも街灯が等間隔に接地されているが、その役割を果たさない。ヤシチのライトだけが頼りだった。
「ねぇ、ヤシチさん。毎年花火上げてるの?」
『…いえ、親方達がいなくなってからはまだ一度も』
ヤシチは寂しそうな表情をした。
「なんで?打ち上げ方わからないの?」
「いえ、私には花火に関する技術がプログラミングされています。私一人で、打ち上げは可能です」
「じゃあ…」
「見てくれる人がいなかったので、それで花火を上げても意味はないのです。親方もそう言っていました。でも今日は観客がいます。やっとこの花火を上げることができる。お二人には感謝してもしきれません」
ヤシチは二人に振り返りニコリと笑った。少女は笑い返し、少年は恥ずかしそうに下を向いた。
しばらく歩いたところで、整備された広場が見えてきた。広場に続く下り坂を慎重に進みながら、三人は広場に到着した。
『お疲れ様です』
「ふぅ…」
額の汗を拭う少年の頬を夜風がなでる。川が近いからだろうか、暑さは残るが少しだけ心地よかった。
「ヤシチさんっ。花火は何発上げるの?」
ワクワクした表情をする少女を前に、ヤシチは少し困った表情をして、
「ご期待してるところ申し訳ないのですが…、一発です」
頭を掻く仕草しながらヤシチの指は一本だけ立った。
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