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ヤシチはブルーシートをめくると、そこには打ち上げに使用する大筒や土台。そして、一発の小さな花火玉が置いてあった。荷台の広さに対して、その花火玉は寂しげに見える。
『3号玉です』
「…小さいね」
口にした後、少年はしまったといった感じで口をつぐんだ。そんな失言にもヤシチは笑顔で、
『私が作成を許されたのはここまでなのです』と言った。
「じゃあ、これヤシチさんが作ったの?」
ヤシチの片手に収まる小さな花火玉を少女は見つめる。
『親方が作ったものは、全部ダメになってしまいましたし、残っていたとしても、親方の許可なく上げられません。…ガッカリされましたか?』
「ううん!全然。私、打ち上げ花火見るの初めてなの。どんなものでも見れたら嬉しい!」
少女の言葉にヤシチはニッコリ笑いながら、
『では準備しますので、少々お待ちください』
「僕、ちょっとトイレ行ってくる」
少年はその場を離れた。少女はヤシチが準備しているのを少し後ろで見ている。
『お二人は付き合いは長いのですか?』
準備の手は止めることなくヤシチは少女に訊ねた。
「世界がこうなってからだから、そんなには?」
『そうですか。彼は特異な人間なのでしょうか?私のデータベースにもそういった事例はありません』
「…そうかもね」
『私は旧式の時代遅れのロボットでしたが、あなたはおそらく最新鋭のアンドロイドなのでしょう』
ヤシチは少女の方へと振り返る。10代の姿をした少女は人間と遜色ない憂いの表情を見せた。その瞳はヤシチの液晶のライトに照らされ、鈍く光っていた。
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