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「ねぇ、世界滅亡の定義ってなんだと思う?」
「急になに?」
容赦なく降り注ぐ日射をビルに隠れてやり過ごしている時、少女はそんな問いを少年に投げかけた。少年は突然の問いに戸惑いつつも少し考えた後、
「荒廃した大地、崩れた建物、生き物がいない」そう答えた。
少女は辺りを見渡す、ヒビ割れたアスファルトを指し、
「荒廃した大地」
半壊したビルを指し、
「崩れた建物」と呟く。
そして隣に座る少年を指し、
「生き物はいるね」と、してやったりな顔で笑った。
「まぁ、そうだね」
「耳にはうるさいくらいの蝉の声が聞こえるよ」
「何がいいたいの?」
「君が言った定義に当てはめるなら、世界はまだ滅んでないんだよ」
「まぁ、そうなのかもね」
少年はそれ以上、自分の意見を言おうとはしなかった。諦めたわけではない。少女の意見に納得したのと、その笑顔を余計な一言で崩したくはなかった。
「あっついな…」
日陰にいても夏の蒸し暑さは軽減されない。少年は額や背筋を通る汗に不快感を覚えながら嘆いた。
「夏らしいことしたいね」
少年の嘆きに少女は答える。世界がこんな風になっているというのに、少女はあっけらかんとしている。会話だけ聞いていれば、男女の何気ない日常会話だ。
「夏らしいって、例えば?」
「うーん」少年の問いに少女は唸る。そんな時、サァッと夏風が吹き、一枚の紙が少女の足元に滑り込んできた。かなり日焼けをしており、ちょっと引っ張ろうものなら、あっさり破れてしまいそうだった。そこには、大きな文字で『花火大会』と書かれており、色あせた打ち上げの花火のイラストが描かれていた。下部には開催場所と日時が記載されていた。年は違うが、日付は今日だった。
それを見た少女は、ぱぁと目を輝かせ、少年にぐいぐいと紙を見せて、
「花火見に行こう!夏らしいこと!」満面の笑みでそう言った。
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