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いざ関空へ! 7-1
彼女がまだ手紙を見つめている。
私は声もかけずに見守っていた。
彼女が白い喉頸を伸ばし、天井を見つめ、短い吐息を漏らした。もう一度手紙を見つめ直し、差出人と話すように怒り口調で彼女が言った。
「李麗蘭め、抜け駆けしようとしていたのね」
「はぁ?」
「二人で抜け駆けはしないと約束していたのに……。帰ったら電話でとっちめてやる」
「はぁ?」
「カナダへ中国語でメールを送信しても、文字化けをします。私、英語がわからないし。だから李とのメール交換はいつも日本語でしています。国際電話だと、お金が高くなります。でも今日はメールなんてまどろこしいから」
「何の話ですか」
「いえ、こっちの話です。すみませんでした」
彼女が怒っている。焼餅をやいている。心が戻ったの。
どうして?
過去を振り向いたから昔の思いを取り戻した。
そんな感情が女にあるかしら。
確かめなきゃ気になる。
「抜け駆けって」
「聞えてたのですか」
「ええまぁ」
「李がこんな手紙を北原さんに出していたなんて、私、今までそんな話は一度も聞いていなかったものですから。ずっと隠していたなんて」
まだ口なんて挟めない。
「それに、私よりも多くの手紙を出しているのですよ」
「そんなこと私に言われたって」
何かが違う。彼女の怒っている表情は、初めて会ったときに見せた、あの拒絶する怒りではなく、いつの間にか愛情が注入された怒り方に変化している。
それにしてもどうして私が責められなきゃいけないのよ。これじゃあ、とばっちりじゃない。そうよ、言い返さなきゃ。
「あなただって手紙を出していたじゃないですか」
「ええ、それはそうですが、私の場合は……」
「私の場合は何ですか」
「いえ、すみません」
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