いざ関空へ! 8-1

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いざ関空へ! 8-1

 思いを寄せた人の追憶が通り過ぎたとき、人はどういう言葉をかければいいのだろう。  彼女は手紙を持ったままひっそりと咲く岸辺の花になった。  風になびく花であっても根は動かないように、私から話しかけても彼女は何も答えないだろう。手紙に綴られた言葉ではなく、手紙の中に秘められたひとつひとつの想いを蘇らせているようだ。  友人が出した手紙の下に自ら出した手紙の束を滑り込ませた。  彼女が振り返るようにして写真を手にした。残り少ないトランプをくるように見終わった写真を後ろへ回した。三枚目で手の動きが止まった。  イルミネーションを背景にして三人で撮影した写真だ。夫と腕を組んでいたのは彼女じゃなかった。彼女は夫のそばで隙間を開け、遠慮がちに寄り添っていた。写真から判断をすれば、彼女は夫の恋人の友達だと、誰もが勘違いをするだろう。  私が初めて写真を手にしたとき、彼女より李さんの方に意識が向いた気がする。  この頃はまだつき合っていなかったのだろうか。  彼女が小さく微笑んだ。  ストレートに訊いてみよう。 「あなたは夫とつき合っていたんですね」 「はい」  認めた!  ここにきてやっと素直な気持ちで認めた。 「初めがあるから終わりがあります。留学したから故郷へ帰りました。出会ったから別れた。ただそれだけです」  何なのよこの女。また逆戻りじゃない。 「ただそれだけですって、おかしいじゃないですか、そんな言葉は」 「声が大きいです」  店内には二組の客が座っていた。気づいていなかった。それにつけてもしゃくに障る。何をそんなに小さな声で、冷静に私を(たしな)めているのよ。周りを見回すように確かめたりして、冗談じゃないわよ、まったく。 「わかりましたぁ」
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