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第一章 はじまる、ユメコネクト!
なだらかな坂は草花で覆われて、薄っすらと紫に咲いた花が風に揺れている。
私は真っ白な剣の柄を両手で握りしめた。顔を上げて真っ直ぐ前を見る。真っ赤な鱗に覆われたドラゴンが太い首を揺らしていた。地響きのような呻き声が漏れる。
「私は――負けないっ!」
もう一度強く剣を握りしめる。
ドラゴンの尖った白い歯の奥に炎が揺れている。
私の名前は、エレナ・ローゼンマイヤー。
伯爵家――貴族の女の子だけど、魔女に操られた獣――魔物たちと戦う旅をしている。選ばれた「白の騎士」として。
真っ直ぐに駆け出す。そして頭部目掛けてジャンプ。ドラゴンは重そうな体を揺らしながら、前足をあげる。私は懐へと飛び込み、聖なる白い剣をその眉間へと振り下ろした。
「たああああっ!」
『グオオオオォォ』
鱗の薄い部分を剣先が斬りとる。でも、浅い。
空中でバランスを整えて、着地。振り返ると、ドラゴンは大きな口を私に向けて開いた。これはやばい。
すぐに地面を蹴って後ろへとジャンプしようとした瞬間、足をつるりと滑らせた。ピンチ!
『フォラァァァァァ――!』
「――エレナッ!」
ドラゴンの炎が吐き出された。絶体絶命!
でもその瞬間,私の視界を黒い少女の背中が覆った。吐き出される炎を彼女の構えた黒い剣が切り裂いた。
「大丈夫か? エレナ?」
「うん、ありがとう! リリアンヌ!」
黒い鎧で体を覆った私のパートナーが首から上だけで振り返る。
「無茶しすぎだよ、公女殿下」
目で笑いながらたしなめる彼女に、私は小さく「てへっ!」と舌を出した。
私を庇ってくれたのは「黒の騎士」リリアンヌ・フェルシュタット。私のパートナーだ。
「炎が止んだら決めてしまおう、エレナ」
「そうだね。もう十分に削れた気がする」
私は白い剣に手をかけると聖なる魔力をその刀身へと注ぎ込み始める。リリアンヌもまた炎を切り裂きながら黒い剣へと彼女の魔力を注ぎ込み始めた。
『――フシュゥゥ』
やがて炎の雨が止んだ。視界が晴れて、ドラゴンの顔がすぐ近くに浮かび上がる。額には薔薇の紋章。それは「南の魔女」に使役されている証しだ。
私は一歩前へと出る。リリアンヌの隣へ。そして剣を、前へ。
「行きましょう、リリアンヌ。あの竜の魂を、今こそ解放するのです」
「うん。使命を果たそう。魔女に心を囚われた哀れなドラゴンをこの手で葬るんだ」
彼女は炎に熱された剣を一度払うと、その刀身を私の差し出した剣へと重ねた。
二人で同時に,聖なる魔法の言葉を放つ。
「「白と黒の閃光(ヴァイス・シュバルツ・リヒトヴェーラ)ッ!」」
重なり合った聖剣から光が放たれ、赤いドラゴンを包み込んだ。光の渦に飲み込まれてそれはやがて消滅していく。
その様子を眺めながら。視界はぼやけ、意識は遠くなり、私の心は少しずつその風景から離れだして……
そして私は目を覚ました。
――いつもみたいに。
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