第8話 終焉の魔術戦

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(Side:アーシャ) 何度も何度も。 グルグルと回る思考。 最初は彼のためになるのならと、本当に思っていた。 嘘じゃ無い。 魔術の譲渡が黒魔術であり、違法であることすら、知らなかった。 無知とは最大の罪だ。 「明日はゆっくり休め。生徒達は何も知りはしない」 魔術科の教師の魔術で寮部屋まで送られ、そんな言葉をかけられた。 どうやら、魔騎士長と理事長の機転により騒ぎにならずに後夜祭は幕を閉じたそうだ。 怪我人なども1人もいない。 それはよかった。 良かった、けど。 寮の自室に1人。 ベッドに体育座りをしながら頭を埋めて考えることは。 『なんてことをしてしまったんだ』 そんな自己嫌悪。 「わかりました」と言ったシオンの背中が。 「ごめん」と言ったシオンの震える手が。 何度も何度も。 頭の中をグルグルする。 シオンは何も悪く無いのに。 自分の弱さが招いたことだ。 合わせる顔がない。 それなのに。 「一緒に学院に帰ろう」 そう言って彼が笑うから。 甘えてしまいそうになる。 許されたのだ、と。 決して許されてなどいないのに。 許されてはいけないのだ。 自分はシオンの将来までもを奪った。 きっと魔騎士になる気はなくて。 魔術に頼って生きる道を彼は嫌った。 だから、普通科に進学したのだろうに。 例えシオンが許したとしても、自分自身が許せない。 外はもうすっかり明るくなって、鳥の囀りが聞こえてきた。 もう朝か……。 一睡もできなかった。 食事をとっていないため、腹の虫が空腹を伝えてくる。 だからといって動く気にもなれない。 ピンポーン、ピンポーン と呼び鈴が来客を知らせた。 誰だろう、こんな朝早くから。 やはり王宮に戻らされるのかだろうか。 それとも、噂を聞きつけた魔術科が直接手を下しに? 誰でも良い。 今は誰にも会いたくない。 「全く。やっぱりな」 突然聞こえた声にハッとそちらへ目をやる。 確かに鍵は閉めたはずだ。 チェーンも。 なのに、なぜ貴方がここにいるのだ。 1番会いたくて、1番会いたくなかった人。 「寝てないのか」 ふいっとソッポを向く。 目の下のクマが見られたら心配させてしまう。 「とりあえず、寝ろ。その様子じゃ、全然寝てないだろ?明日からまた学校が始まる。お前がいないと生徒会も仕事にならん」 優しくて暖かな手が目を覆う。 ズルい。 そんな優しさ、敵うわけないじゃないか。 まるで魔法にでもかかったかのように、ゆっくりと瞼が閉じた。
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