与えられた右腕

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与えられた右腕

___本当の自由は、何にも寄りかかれない。 それは儚く、寂しく、険しい。 その先に保障や見返りを求めてちゃあ、ダメだ___  ふ… 次見かけたら殺す?今じゃなくていいのかよ… 櫟士には、立派な右腕と左足が付いていた。それは、流9洲における権力の象徴たる”テクノライズ”。 そこに住まう者達であるならば、恐れ慄くか、羨むしかない絶対的な”力”を持つ者達の証。 今までとは全く違う、自分に対する周囲の反応が、櫟士にとっては面白おかしかった。 こんなモンでビビるのかよ?こんな下らない、元の手足の代わりにもならない鉄くずの塊に。  彼のテクノライズに対する辛辣な感情とは裏腹に、与えられた手足は、櫟士の命の渇望に呼応していた。 櫟士が”どうしたいのか”、どうすれば、彼にとっての手足となりえるのか。 彼が歩みを進め、時に怒りに身を任せて何かを破壊する時も、 いつ如何なる時も。  何だよその目ェ?嫌いなんだよ!テメぇ一人で生きていけます、みてえなツラしやがって。思い上がりで生きてる若造がぁ! …俺もそうだったからさ。 石井は容赦なく櫟士の脳天目掛けて刀を振り下ろす。しかし キュイイイイイイイン… まるで吸い込まれるかのように、彼の右腕は白刃を握りしめていた。 モーターが全力で稼働している際に発する高周波音にも似た、右腕の甲高い歓喜が周囲の意識を支配する。 刀は一瞬にして、石井の左隣りにいたオルガノ構成員の脚に放り投げられた。 その場にいた誰もが、投げる瞬間すら捉えられない。 ふざけるな…こんな若造相手に…これじゃ大西と時と一緒じゃないか…! この期に及んでも、石井の闘争心は揺るがない。それは、かつて味わったことのある辛酸の故。 石井は懐に忍ばせたチャカを引き抜く。 だがそれは遅すぎた。今の彼の右腕に捉えられない動作は何一つとして存在しない。 拳銃は遥か上空へと吹き飛ばされ、地面に叩き伏せられる。石井の顔面も、今はそこにある。  これは俺のエモノだ。これは俺のエモノだ!誰にも邪魔は、させない! 櫟士は、あえて右腕を封印して石井に殴りかかる。 お前には、俺の生身の肉体による制裁を受けて貰わなくちゃいけない。俺の気が済まない。俺の全身を伝って暴れ回る怪物が、静まらない! 櫟士の狂気を理解した右腕は、本来なら一撃で仕留められたであろう攻撃を寸前でひっこめた。 貴方がそう願うなら___  オルガノ構成員 石井響介、死亡 彼の部下であった構成員が放った複数の銃弾は、櫟士の顔にカスリ傷を負わせるだけに終わる。 お…お前… この世に神がいたとするなら、彼はきっと、それに愛されているのだ。 構成員は諦め、そして悟った。 多分、きっと、恐らく、ヤツを止められる人間なんて、流9洲にはいないじゃないか。  流9洲に約束されたいつもの夜が来た。誰しもが眠り、人口太陽の光を待ち望む。 人も、ネズミも、虫も植物も、皆がそれを望んでいる。 光は、生きとし生ける者達にとって無くてはならない存在だ。 特に、地下に生きる彼らには、それはかけがえのない希望と”当たり前”だった。
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