勇者オタクと拗らせ勇者

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勇者オタクと拗らせ勇者

「ほれ! サオリ着いたぞ! パルメザン名物、サンセットバザールだ!」 手を引かれてやって来たのは街の市場。 別に私ここに観光に来たわけじゃないのに·····勇者も廃業したのに····· この少年見たところ、物凄い勇者に憧れを抱いてる模様。 アルミナ様の話とか凄い食いつてきたしなー、もしかしてよっぽどの勇者オタク? じゃないとこんなに絡んでこないでしょ。 「あのー気持ちはありがたいんですけど、どうしてそこまで、吐いたことならもう、怒ってないですから」 「どうしてってそりゃ、サオリ、お前さん勇者なんだろ!? 俺さぁ勇者のこと大好きなのよ!」 わぁお、ざっつらーいと、予想大的中。 「だからよー、ちょっと世話させてくれや! 面白い話も聞きたいし! この街もすぐ離れんだろ?」 「いや、離れはしないけど·····むしろ永住するんだけど」 「ん? お前さん、ここに住むのか!? おいおい、勿体ねぇ! せっかく旅してんのに、こんなとこに住むなんて!」 「なっ何よ、別にいいじゃない!」 「かぁー! なぁに言ってんだ! 今や勇者時代と言われるほど自称勇者共が張り切って旅に出て魔王を打とうとしてんだぜ!? こんな、皇族やセレブの遊び場に永住しようとするなんざ、人生の半分ドブに捨てるもんだ! ここにある煌めきなんてのは、数日ありゃ満足できる! それより、色んな町を旅して色んな人と巡り会って、ハラハラドキドキな冒険ができる旅人になる方がいいに決まってる!!」 滅茶苦茶熱く語るなこの少年。 まったく、そんなに旅に出たいなら私の体あげようか? 「そう思えるのは、貴方が強い力があるからじゃないの? 私みたいな雑魚には魔王を倒す旅なんて無理、それなら、落ち着いた平和な街でぼけーっと暮らしたいわ」 「·····お前さん、なんか他の冒険者達と違うな、というかなんで旅に出たんだ?」 「ノーコメント、それより、もうこんな勇者のなり損ない相手にしなくていいよ、こんなのに構ってたって君の聞きたいような話は聞けないから」 そう言って彼に背を向ける。 おうおう、最初から強気に出なさいよ私。 ちょっと手と足震えてるけど、ちゃんと人を振り払えるじゃないか。 ビクついて言いなりになるんじゃないよ、まったく。 自分の負の感情のスイッチが入ると、それまで自分を縛っていた糸がプツリと切れるみたいに、自分の抑えていた感情が溢れ出す。 それは、時に悪い事を引き起こすが、今回はそれがいい方向に傾いた。 「おい! サオリ!」 「何? 私、別に貴方と話したく·····」 「ちげぇよ! 横っ!」 「へっ?」 横を見ると見えてくるのは、坂から降りてくる制御不能になった馬車の荷台。 物凄いスピードでガタガタと音を立てて、私のすぐ側までやって来ていた。 逃げないとって頭で思っても、あまりの出来事に体が反応しない。 「トリックムーブ!」 「ひやっ!」 クルクルと紐に巻かれ、そのまま私は引っ張られた。 まっ、また紐!? というか誰が! 「あっぶねー、危機一髪だな」 引っ張られた私は彼の腕の中。 身動きが取れない私は、ただ顔を赤く染めて目を丸くする事しか出来なかった。 「あぎゃああああ!!! はっ離してえぇぇ!! 恥ずい! 恥ずか死ぬううう!!」 「おい! 助けてやったのになんで発狂してんだ!」 「状況を考えろ! やめろ! 私にそんな優しくするな! 優しさに免疫無いから、ちょっとの事で信用するぞ!! いいのか!」 そう言ったら、彼に凄い暖かい目で微笑まれた。 「なっ、なんだよ! その目!」 「·····いやぁ、その、なんつーか·····お前さん拗らせてんなぁ」 「余計なお世話だ!! それより縄ほどいてよ!」 「わっ、わりぃ!」 巻かれてたロープを解いて腕から起こしてもらった。 「ほんじゃ、サオリ飯でも食いに行くか?」 「·····いや、別にいい」 その言葉とは裏腹にぐぅーと大きな音を立てる私の腹。 「よし、行くか! サオリ!」 「うわっ! ちょっと! 肩組まないでよ!」
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