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勇者再始動
嘘ぉぉおおおお!!! なんでこんなに人がいるのおおお!?
勢い任せで地図のとおり、アジトに向かった私。
なんとか話し合いで返してもらおうと思ったが、そんな甘い考えはゴミ箱に捨ててから来いと言う話だ。
「こいつだよ! この女だ!」
「アッシュ知り合いか!?」
「まっ、まさか、その招待状の持ち主なんじゃ」
そっ、そうだよ! その通りだよ! でっでも帰ります! 帰りますからァ! そんな獲物を狩るような目で見ないで!
「やれえぇぇ!! お前ら! アッシュを守れええ!!」
「ちょっ!」
「しかもべっぴんさんや! これならお頭も喜ぶでぇー!」
「お前らやめろ! そいつは!」
「大丈夫だ! どんな恐ろしいやつでも俺らが倒してやる!」
ひいいいっ! やっ、やるっきゃない! わっ私だって、一応ババア様達の修行を受けたんだ! ちょっとくらいなら戦え! 私! 頑張れ! 私!
「どけえええ! 手を出すな! お前ら! そいつは俺の獲物だ!」
「「「あっ、アッシュ!!!」」」
げぇっ!? あいつ、私に殴りかかってくる!
「ひいっ!」
拳を腕2つで受け止めたけど、力を殺す事は出来ず、私は後ろに倒れる。
そのまま彼私に馬乗りになり、首を絞める。
「かはっ!」
やっ、やだ! 私死にたくない!
じたばた足を動かすけど、この状況を抜け出すことは出来ない。
どうしようもないじゃん、苦しいしもう駄目じゃん。
私の人生完! 来世にご期待ください!
そんなくだらないこと考えながら私は深い眠りへ落ちていく。
※※※
次に目を覚ますと、私は暗く冷たい場所にいた。
どうやら私は捕まったようだ。
鉄格子の檻に入れられ、奴隷の様な服を着せられている。
「·····おーい、生きてっかー」
「アッシュてめぇ!! よくも私を騙したわね!!」
檻の外にいるのは、今私が最も殺意を抱いている相手。
「私を殺しかけやがって·····絶対に、あんたのこと許さないんだから!!!」
「あーごめんって、あそこまでやるつもりなかったんだって」
「何があそこまでやるつもりよ! ご丁寧に地図まで書いちゃって! 全部この為だったってわけ!? 私を捕まえてどうしよってのよ!」
睨みつけると、黙り込むアッシュ。
「ははっ、そんなの決まってんだろ」
ぞくりと悪寒がした。
背中が凍るような冷たい顔。
嫌だ、怖い、きっと私、死ぬより酷いことされるんだ。
「ここに連れてこられた女は、お頭の奴隷になるんだ、それか普通に奴隷として売る」
·····絶望した。
酷い話じゃないか、これまでクソみたいな人生送って来たのに、今度は地獄に落とされるの?
これなら、勇者として旅をしていればよかった。
これは神から私への罰か? 私が我儘ばかりのヘタレ野郎だから。
ちゃんと勇者の責務を働かないから、この世界の神がキレたのか? やめてよ、それなら、こんな出来損ないに産まないでよ。
神様、意地悪するくらないなら、こんな惨めな体でこの世界に産み落とさないでよ!
「嫌か?」
「当たり前よ·····そんなの嫌に決まってるじゃん!!」
「だよな、だから俺が助けてやる」
「·····はっ?」
「じゃーん、これなーんだ?」
彼はそう言って私に鍵を見せる。
「ここの鍵だ」
「うっそ! なんでよ! ·····あんた、何がしたいの·····?」
「お前と一緒に旅がしたい」
「·····はっ?」
衝撃的な一言に頭がフリーズした。
えっ? なに? この男こんな時に何言ってんの?
「まぁ、聞けよサオリ。俺は勇者が大好きって言ったよな」
「·····うっうん」
「勇者、そうそれはかつて世界を救った、1人の冒険者フジワラ・マコトの事を言うんだ、つまりお前の爺さんだ」
「えっ!? ちょっ!? なんで私のこと知ってんの!?」
「·····お前さん、酔って記憶なくすタイプなんだな、自分で喋ってたぞ」
はっ! あの時なんかそんな事言ってたかも!
「皇族の招待状持ってたから、大物だとは思ったがまさか、フジワラ家のものだったとはな」
「だから何」
「だから何じゃねーだろ!! サオリ! お前はなぁ選ばれた人間なんだよ! すげぇんだぜ! 勇者の血を引いてるってことは!」
「はぁ!? 馬鹿なこと言わないで!!! 私がそのせいでどれだけ苦労してきたか知らないくせに!!」
「·····まぁ、聞いてくれサオリ、俺はな、昔っから勇者マコトに憧れてたんだ! 彼の伝記は数え切れないくらい読んだ! マジですげぇんだぜ! いつか俺も彼みたいな冒険をするんだって夢見てた」
「·····じゃあ、すればいいじゃん、世間では勇者ブームだよ」
まぁ、そのせいで酷い目にあっているのですが。
「そうできりゃ、いいんだがよ。俺は出来ねぇんだ」
「どうして?」
「俺、実はな奴隷の子だったんだ」
「えっ」
「奴隷オークションにかけられる前に逃げ出して、この盗賊団に拾ってもらったんだ、んで今に至るって訳。長い間ここにいたから抜けるに抜けれねぇんだ、お頭達への恩もあるしな」
「·····それなのに、私と旅に出たいって言うの? 理解できないんだけど」
「時に人間はな、自分の恩だとか、人への義理だとか忘れて自分の欲望に素直になる時があるんだ」
「·····」
「俺は夢を諦められなかった、そんな時にだ俺の尊敬する勇者の孫が現れたんだ! そりゃ運命だって思うだろ! 今まで生きてきた人生全部捨ててでも掴み取りたいチャンスだったんだ!」
「だったら、酒場の時にいいなさいよ!」
「·····俺も迷ったんだ、どうすればいいか、だからお前に全部賭けた、もしサオリが俺を追ってきたら俺はお前にどんな事をしてでも旅に連れてってもらおうって」
「·····なにそれ、あんた自分の夢の為に私をこんな目に遭わせたの!? 殺しかけて!? 絶対に旅なんかしない! あんたが人生賭けてるのなんて知らない! 同情なんてしない! 助かったとしても、そんな酷いやつと一緒にいたくない!!」
「それについては本当に済まなかった!!!」
冷たい地面に頭を擦り付けて謝るアッシュ。
「ちょっ!」
「謝って済むとは思ってない!」
·····なっ、なんでそんなに、必死なの·····なんで、私なんかの為に·····
「嫌だよ、一緒に行ったって私凄く弱いし、足でまといになるだけだもん!! あんた私がなんて呼ばれてたか知ってる!? 出来損ないの死に損ないよ! あんた皆に要らない子って言われた事ある!? フジワラ家に憧れてんなら尚更私なんかオススメできない!!」
「·····それがなんだよ」
「えっ」
「いいかサオリ! フジワラ一族は俺にとっての夢なんだ! 俺はフジワラ家の勇者パーティに入って歴史に名を刻みてぇ! 弱い? そんなの知ったこっちゃねぇ! 俺はあの人の血が流れてるお前を本物の勇者にしてやりたいんだよ! 弱くたっていい! 俺がお前を世界を救う勇者にしてやる!!」
「·····なっ、なにそれ、なんなのよそれ! 意味わかんない!」
「あぁ、そうだろうな! お前酔って全部忘れてるんだから! お前が心の中で思ってたこと全部俺知ってんだからな!」
言い争ってた私の熱がサーっと引いた。
えっ、嘘、まじ?
「いいか、サオリ! お前に残された道は2つ! このまま檻にいて奴隷になるか、俺と一緒に魔王を倒すかだ!」
······あーもう! そんなの1つしかないじゃない!
「わかった、分かったよ! 一緒に行こう! でも勘違いしないでよね! これはあんたに脅されて選んだ道じゃない! 私が貴方と旅をしたいと思ったからOKしてやったんだからな! そこんとこよろしく!」
「あぁ、よろしく頼むな! サオリ!」
檻の中から伸ばした手を力強く握るアッシュ。
こうして私は再び勇者として旅に出る事になった。
フジワラ・サオリ 無職→勇者。
仲間を手に入れました。
アッシュ・ヴァンホーテン 職業 盗賊。
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