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別れの涙はない、あるのは旅立ちへの希望だけ
「大丈夫だ行っくぞー」
「おー」
こそこそ、こそこそ、忍び足。
盗賊達にバレないように移動中。
「おし、俺の部屋の荷物は取った、あとは外に出るだけだ」
「ねっ、ねぇ? 私のお金と招待状は⋯⋯?」
「安心しろ! ちゃんと俺の鞄に⋯⋯あれっ? ない?」
固まるアッシュと私。
顔がみるみるうちに曇る。
「⋯⋯ヴァンホーテン君?」
「すまーん、あいつら献上ボックスに入れちゃったみたい⋯⋯」
「⋯⋯それで? 献上ボックスとやらは何処に?」
「お頭の部屋」
「よぉし、金髪行ってこい」
てへっと笑うアッシュに真顔で指示した。
「サオリ! お前っ! 本気で言ってんのか!? いいじゃねえかあれくらい! 紙と金だろ!」
「金はいいとして! あれを売りに出して無法者達が屋敷を使ってみろ! アルミナ達に迷惑がかかるでしょうが!」
「あの姫さんは強いから大丈夫だって!」
「そういう問題じゃないの!! あれは私の名前が書いているのよ!? 私が他のやつに譲ったみたいじゃない! 取ってくるのは無理でも破棄してきなさいよ!」
「おう、何を破棄するだって?」
後ろから黒い大きな影がこんにちは。
わぁ、ちょっと怖い声だなぁ、振り返りたくないなぁ。
見てよ、汗がダラダラ垂れてくる。
アッシュの顔も真っ青だ。
「アッシュ、そのねーちゃん連れてどこ行くんだ?」
「おっ、お頭⋯⋯」
引き攣った顔で振り向くアッシュ。
「まさかとは思うが、そいつを逃がそうってんじゃないだろうな?」
「にっ、逃がすわけないじゃないですかー! 嫌だなーははは!!」
「そうだよな! 俺が丹精育てたアッシュがそんな事するはずないもんな!!」
「あははー、いやぁ、逃がすわけないじゃないですか⋯⋯」
こっ、このぉ!! おまっ、あれだけ私を誘っておいて!!
「俺と一緒に出ていくだけです!!」
「ごべーん!! そうゆ訳ですさよならー!!」
手のひらをすぐ返すこの私。
そしたら、背も頭にむけて、バビューンと走り出す。
「コノヤロー!! であえであえ!! 裏切り者を粛清せよ!」
盗賊のお頭の声で起きて飛び出てくる盗賊達。
「てめっ! アッシュ! 恩を忘れたか!」
「忘れていやせん! かしら達の事は家族みてぇに思ってます!」
「ならその女を手離して戻ってこい! 親父の言う事聞け! バカ息子!」
「だけど! 俺には夢がある! 親なら息子の夢を応援しやがれ! クソ親父!」
「そーだー! 子離れしろ! ついでに女遊びやめろ!」
「じゃかしい! 外野! お前が現れなきゃアッシュはここに居たんだ! 大人しく俺に捕まりなぁ!」
「んひいっ!? アッシュ! お頭ってマジカルパワーとか使わないよね!?」
「安心しろ! 俺達は魔法は使えん!」
「よっしゃ! なら、力が擦切れるまで走れぇぇえええ!!」
盗賊と勇者パーティの鬼ごっこ。
両者、汗水鼻水垂らして走りまくる。
「待てぇぇええ!」
「待たねえ! 世話になったな! 皆!」
「アッシュゥ! 貴様! 女に手を出してやがったな!」
「それで駆け落ちだと⋯⋯許さん!」
「ちっげぇってのアホンダラ!」
「その子のパンツとブラは見たんだろ」
「黙れ変態!!」
何だこの変態だらけの巣窟は。
「みっ、見て! アッシュ! あそこ! 出口だ!」
「よっし! ラストスパートだあああああ!!」
「「うぉおおお!!! 行かせるかあああああ!!」」
扉を突き破り、私達は外に出る。
それを追いかけて盗賊達も外に出る。
「ひぃ、ひいっ、もう、ダメっ⋯⋯」
「サオリっ! しゃあねえ! 後で文句言うなよ!」
へばった私を背をって走るアッシュ。
「よしっ! 女がバテた! 今だ!」
「かしらぁ、あっしらもギブです⋯⋯」
「あとは頼みましたァ」
「だらしねぇな!!」
「あぁ! もう! しつこいな! 私なんか要らないでしょー!」
「へっ! お前の正体は分かってんだぜ勇者の末裔! お前を魔族に突き出せば懸賞金が貰えるんだ! それと人類滅ぼしても俺らは滅ぼさない券んもなぁ!」
なっ、なんじゃそれえええええええー!?
えっ嘘っ! 懸賞金かけられてんの!? なっ、なんで!?
「お前ら勇者一族に魔王が懸賞金掛けたんだ、魔王に反乱する危険分子って事でなぁ! お前ら訳分からん人間より、魔王に縋る方が長生きできるに決まってる!」
「ぶびゃひゃ! 残念だったなぁ!! 私は勇者一族の中で最弱! そんな私は勇者一族の要らない子! 懸賞金がかかる訳ねーだろ!! どーせ、ケイ兄ちゃんとかババア様に」
「いーや! 手配書と同じ顔だ! 5億ルピーのフジワラ・サオリぃぃイイ!」
「ほげぇぇえええええ!?」
目ん玉が飛び出た。
ついでに腕も上がった、鼻水とヨダレも垂れた。
私の存在はババア様達が、世間に公表しないように隠してたから数少ない人しか知らないはず⋯⋯本当に? えっ? なんで!? なんで、私が⋯⋯もっ、もしかして、この前のせい!?
「サオリお前! お前何したんだ!」
「一瞬だけ再起不能にした⋯⋯でっ、でも! 私の力じゃないの! アルミナのドーピングがあったから!」
「そんなことは知らねぇ! 俺は安寧と平穏が手に入りゃあそれでいいのよ! だからよぉ、アッシュ! お前の夢なんかより俺達と⋯⋯」
「サオリいい!! お前本当にすげぇよ!」
「「へっ」」
「固定砲台とか言ってたけど、お前絶対あれだって! 才能だって! 5億もかけられてんだぞ! お前もう少し誇れよ! よーし俄然やる気出てきた!」
アッシュが私の事を嬉しそうに褒めるからついつい顔が緩む。
「えっ、そっ、そう? えへへ~本当かなぁ~強くなれるかなぁ~」
「たりめぇだろ!」
「おいいい!! 俺を無視するな!」
「お頭ァ! 悪ぃ! もう絶対戻らんわ! 俺はサオリと一緒に魔王を倒す!」
「なぁに馬鹿なこと言ってんだ!」
「ロープマジック!」
アッシュは腰についてる縄を使い大きなお頭を締め上げる。
身動きを封じられた彼は無理に動こどうして、転び起き上がれなくなる。
「なっ、なんじゃあ!?」
「へっへーん、俺のロープは特別性だ! 勿体ねぇからいざという時まで取っておいたんだ!」
「ちょっと! そんなのがあるなら最初から使ってよ!!」
「おまっ! 失敗したらどうすんだ! それにこれ結構高ぇんだぞ!?」
「ぐぬっ! あっ、アッシュ!! 貴様ァ!!」
ぐるぐる巻きになって倒れているお頭。
「ぷぷぷー! いい気味! 悪いけどもう私達に関わらないでよね! ほら! アッシュっ! 最後に別れの一言、言ったれ!」
「おう! お頭! 今まで本当に世話になりました! おかしら達に教えて貰った技術で俺は魔王を倒してきます! そんじゃ!」
清々しく彼に頭を下げて、アッシュは笑顔で私を担いで走る。
「サオリ! 改めてよろしくな!」
「うん!」
こうして私は自分の意思で新たな仲間と旅立った。
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