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姫と勇者の旅の始まり
「はぁー·····酷い目にあった」
ババアにテレポートされて着いた場所は、モンスターだらけのジャングル。
ファイアーライオンに食われかけ、アイスペンギンに氷漬けにされかけ、パスタ蛇にぐるぐる巻きにされた。
まったく、修行もろくにしてない中途半端な私を旅にださせるなってんだ。
·····お金集めてどっかで慎ましく暮らそう、家から追い出されたし。
「だぁから! 悪かったって言ってんだろ!」
「それで済むと思ってるんですか! 姫様!」
ジャングルから出た小道で何やら言い争っている、2人の女の子達。
「アルミナ様が、『あいつを闇に落としたのは私だ、だから私が狩りに行く!』とか言ったせいで私まで城を出てく羽目になったじゃないですか!」
「しゃーねーだろ! エリーは私のメイドなんだから!」
·····こっ、この人を旅に出させた元凶だ!
白髪セミロング、姫らしくない言葉使い、美しい容姿!
この人こそ、ハテン皇国第1皇女アルミナ・パペット!
「というか何で婚約破棄したんですか! 姫様が婚約破棄しなければこんな事には!」
「じゃあ、エリー、お前があの顔と一夜過ごせるのか」
「·····無理ですごめなんなさい!」
ちょっと考えて土下座した!?
そこまで酷いの!?
というか、その発言一国の姫の発言!?
仮にも元婚約者でしょ!?
「あとさっきから私達を覗いてるやつ出できなさい」
ばっ、バレてるー!?
なっなんでだ! 私はちゃんと茂みに体を隠したはず!
「お前さんの水色のアホ毛が見えとるぞ」
こっ、これか! 無駄にぴょこぴょこしおって!
「ふんす!」
「抜くなアホ! お前さんのアイデンティティじゃろ!」
「安心してください、また生えてくるので」
「生えたー!!」
「アルミナ様、姫なのに目ん玉飛びな出さないでください!」
·····もう、それ以上のことやってるので手遅れでは?
「·····ところで、貴方は誰ですか? 私達の話を立ち聞きするとはいい度胸ですね」
「ごっ、誤解です! たまたま通りかかっただけで!」
「おいおい、エリー刀を向けるな」
「失礼、アルミナ様が婚約破棄した理由に共感してしまったので、私も批判対象になると思いまして」
なっ、なんだこの物騒なメイドは!
「別にお2人を批判するつもりはありません! でもまぁ、アルミナ様はちょこっとだけ恨んでるけど·····」
「あーこらっ! 刀をしまえエリー! 理由だ! 理由を聞け! うん! こういうのは対話が1番だ! 暴力ダメ絶対!」
「アルミナ様の敵は私の敵! あと私を襲うかもしれない相手は速攻排除ですぅ!」
「落ち着けエリー!」
エリーを羽交い締めにするアルミナ様。
「さぁ、私を恨む理由を言ってみ、私は寛容だから何言っても怒んないぞ」
顔がブサイクだからって理由で婚約破棄する人のセリフじゃねぇ!
「あの、私の家勇者一族なんですけど、魔王が現れちゃったから若い世代皆旅に出させられちゃって·····へへっ、私落ちこぼれだから、あんまり外に出たくないなーって思って·····それで」
「·····ごっ、ごめんなさい」
どっ、土下座した!?
「勇者一族、フジワラ家の噂は聞いております、家長のエレイン様とアギレラ様の血が流れていない、親族は理不尽な扱いを受けていると。中でも末娘の方が酷い扱いを受けていると」
「あー·····うちの家の事そんなに広まってるんだ」
でもなんでバレてるんだ? あのババア様達は絶対に言わないのに、もしかして家の中に心優しいキリスト様でもいるのかしら。
「それで、お前さんその末娘だろ? 辛い目にあってんのにまた辛い事させちまった、ごめん」
「ほんとですよ! あの家は嫌でしたけど、旅に出て戦うのはもっと嫌!! ·····でも、まぁ、もう仕方ないので成り行きに任せますけど」
「まぁー、あれだ、あれ、頑張れよ、そういやお前の名前を聞いてなかったな」
物凄い気まずそうな顔をするアルミナ様。
「サオリ、フジワラ・サオリ」
「おう、私は知ってると思うがアルミナ・パペット、でこっちは従者のエリー・アルタイトだ」
「どうぞお見知りおきを」
ぺこりと挨拶するツインテールのメイドさん。
「この度はアルミナ様のバカ騒動でご迷惑を掛けました、お詫びに近くの街で何か奢りましょう」
「そだな、こいよサオリ。近くにいい街があるんだ」
「·····いっ、いえー、その、私、お金に困ってるわけじゃ·····」
この2人いたら、絶対大変な目に遭うぞ!
私のアホ毛レーダーがビンビンしてる!
なんか危険だ! うん! 悪人じゃないけど、私の中の何かがやばいと言っている!
上手く断って逃げなきゃ!
「そう遠慮するな、どうせ私の金じゃない、エリーが奢ってくれるんだ、いっぱい食え」
「·····アルミナ様? 私の金は貴方の金ですけど?」
「ふぁっ!?」
ニコニコするエリーと固まるアルミナ様。
2人の中で謎の沈黙が生まれる。
「あのーやっぱり遠慮·····」
「えーい! 女に二言はない! 行くぞ、勇者の末裔よ! 私がもてなしてやる!!」
「あっちょっ!」
有無も言わさず私の腕を組んで、彼女は走り出した。
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