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終わりは突然に
「ここだよここ」
彼女に無理やり連れてこられたのは、少し発展した田舎町。
石畳が引かれ、背の低い洋風の建物が立ち並ぶ。
看板にはハテン皇国領土、ショキノ町と書かれている。
って、自国やないかーい。
「·····こんなとこ国にあったんだ」
「そりゃそうだ、なんせハテン皇国はでっかいからな! ちなみにまだ国を抜けるには徒歩だと3日くらいかかるぞ!」
「そんなにでかいの!? うちの島と王都だけじゃなかったんだ·····」
「サオリ様、地図って見た事あります?」
「えへへ·····うちの島と王都の拡大地図だけ」
だって、島を出る気なかったんだもーん。
私達勇者一族は、大陸とは別のひょろ長い島に住んでいる。
この島はかつて勇者マコトの故郷をモチーフに彼の仲間であった3人の少女達が作った(ばあちゃん談)
じいちゃんが死んだ後、多くなり過ぎた勇者一族の独立国家を作ろうとしたが、勇者の嫁の2人が喧嘩ばかりするものだから上手くいかず、仲間の1人だったハテン皇国の姫が気を利かせてうちの領土に入れるからあとは好きにやってと言ったらしい。
「ちなみに、うちの国は世界の7割を支配してるんだぜ! うちの国を責め落とせば実質世界の王者だな! あはは!」
「あははって、姫様·····もし魔王に攻め落とされたらどうすんですか」
「大丈夫! 大丈夫! だって、魔王化したジュドーをコテンパンにして追っ払ったのは私だもん! 殺られる前に殺ってやるわ!」
ケラケラと笑いながらシャドーボクシングをする姫様。
·····そっ、そういう問題じゃないんだけど·····
「ご安心ください、サオリ様。皇族は初代皇帝つまり、勇者パーティの子孫です。魔王ごときにやられはしません」
「そーそー! うちのジジ上とオヤジ様も強いから攻め落とされはしないのよ!」
「なら、なんで復活した時に殺してくれなかったんですか! そのせいで私は·····旅に出る羽目に·····」
「あははーそれはすまん·····ちょっちしくった笑」
「笑ってんじゃねー!!!!」
涙を浮かばせながら切れた。
ううっ! なんでこんないい加減な奴のせいで私の人生が狂ったんだ!
つーか、頭のおかしい奴の周りにはクレイジーしか集まらないの!?
「うおおおお!! わっ、我姫ぞ!? ちょ! エリー! ガードガード!」
「姫様、自業自得です。というか姫様がかっこよく決めようとしてスカートの裾踏んだのが悪んじゃないですか」
「余計なこというな!」
「まぁ、まぁ、あっ、そうこうしているうちに着きましたよ、中に入って入って」
エリーは小洒落た酒場を指さして、私とアルミナの背中を押した。
「いらっしゃい! おぉ! アルミナ様! エリー侍女長!」
「サルモネ。アルミナ様宴会コースで」
「あい、了解! 野郎ども! さっさと調理に取り掛かれぇぇぇぇ!」
「「「うい! ムッシュ!」」」
なっ、なんだこの勢いは·····、料理作るだけにこんなになるのか?
「アルミナ様は食べるスピードが早いんです、急いで作らないと直ぐに機嫌悪くなるんですよ」
「へい! はーやーくーぅ! あっ、このサラダお代わり」
·····ほんとだテーブルの大皿のサラダが消えてる。
「·····というか、私へのお詫びじゃないの?」
「固いこと言うな! 私の金じゃ! 量は沢山あるお前も私に嫌がらせするつもりで食え!」
運ばれてくる料理は直ぐに彼女の口の中。
ガツガツ食らうアルミナ様はまさに野獣。
「おおっ! アルミナ様だー! サインちょうだい!」
「ん? いいぞ、幼き少年」
「アルミナ様! 俺と結婚しようぜ!」
「ダメだ、顔が論外」
「アルミナ様ぁ! かっこいー! 写真撮って!」
「いいぞ麗しきレディ。私が男なら君と付き合いたいくらいだ」
ご飯を食べていると、アルミナ様の周りには人が集まってくる。
「滅茶苦茶人気者じゃん」
「当たり前です、ああ見えて国の顔ですから。いい加減でダメ人間ですけど愛されてるんですよ姫様は」
「ふーん」
「ねぇ、アルミナ様なんでジュドー様の事振ったの? 滅茶苦茶強い聖騎士じゃーん」
「レディ、君は彼と一夜を過ごせるか?」
「えっ、あはは·····報酬によるかな·····」
「そういうこった、私には財力も権力もある。あの男を隣置いてもメリットがない。それにだ、私はアイツより強い」
·····キメ顔でなんてこと言ってんだあんたは。
「「きゃー! アルミナ様痺れるー!」」
質問してきた女子達もなんでアホ姫に憧れてんだ!?
「でっでも、アルミナ様、ジュドー様が人間を滅ぼしたらどう責任をとるんだよ!」
「そーだそーだ!」
「うちの子、弱いのにアルミナ様の為だって行って勇者になったんだよ! 帰ってこなかったらどうするのさ! モンスターだってウジャウジャいるんだよ!!」
おっ、やっと出てきた反アルミナ勢。
そーだそーだ! もっと言ってやれあんたら!
「おっしゃる通りだ、だから私が今ここにいる!」
「えっ」
「私はあの男を城から撃退した人間だ! あの時仕留め損ねたが次こそは私が殺す! 滅ぼされる前に私がアイツを殺す! だから安心しろ!」
彼女は堂々とした態度でそう言って、人々を黙らせた。
自信に溢れた彼女の言葉を聞いた人達は黙り込んで、彼女に見とれていた。
「ご婦人、貴殿の息子のご協力感謝する。旅の途中で出会えれば貴殿の事を伝えよう。そしてもし、私の為に戦ってくれるもの達が命を落としたならば、私は決して誰一人、死ぬまでその者を弔おう」
「·····なっ、そっそれでも! もしそうなったら私は彼にもう会えないじゃないか!! そしたらアルミナ様はどうしてくれるんだい! 息子を生き返らせてくれるのかい!」
アルミナ様のカリスマもここまでか。
「無理だな、うん。そもそも、魔王が復活したのは私のせいだが、倒そうと冒険に出たのはそちらの息子だ、私に責任はない」
少し考えて真顔で彼女はそう言った。
酷っ! さっきまでかっこ付けて本性隠してたのに、なんで最後適当になるの!?
「息子を死なせたくないなら、私を恨まずに今どこにいるか調べてお前さんの言葉をかけてやれ」
「無理だよ、あの子の居場所なんて分かりゃしない!」
「じゃあ会わせてやる」
「へっ?」
「強制展開!」
そう言って彼女はおばさんの手を握る。
まっ、まさか、あんたその技!!
「バカ!! やめなさい! そんなことしたら! おばさんが大変な·····!」
「同調テレポート!」
「ばかああああああ!!!」
やっ、やりやがった!きっと『そんなに会いたいならお前も旅に出ろ、会えればいいな天国で』とか言うんだこの女!
店の中に充満する煙、きっとこれがなくなったら、あのおばさんはもうここには居ないんだろう。
ほら、どんどん薄くなって·····
「へっ? あれ、ここは·····って母ちゃん!?」
「ジョリー!? 」
なっ、なんで!? えっ!?
居なくなるはずのおばさんがいて、なんで息子さんがここに居るの!?
「うおおおい、おいおい! 心配だったんだよぉおおお!」
「うえええ!? 母ちゃんどうしたんだよ! 急に抱きついて·····ってここ、サルモネの酒場じゃねーか! なんでここに·····」
「どうなってんのこれ」
あまりの出来事にビックリして口が塞がらない。
「私が呼んだ、お前さんの母ちゃんが心配してたもんで帰ってきてもらったわ」
「えぇ·····って、アルミナ様!? まじで!? 本物!?」
「おう、お前さん母ちゃんに心配かけんなよ~魔王の事は私が何とかするから君は故郷で普通に働きなさい」
「うっ、うぇ!? おっ、俺は魔王を倒したらアルミナ様と結婚できると思って·····」
「うん、私のタイプじゃないから無理だ、安心して家に帰れ」
滅茶苦茶いい笑顔で人の夢打ち砕いたー!!
「あっ·····はい、母ちゃんごめん俺がどうかしてた」
「ジョリー!! あっ、ありがとうございますアルミナ様!!」
「これで気が晴れたか? ご婦人」
「もっ、申し訳ありませんでした! 先程までの無礼をお許しください!」
「「「すげええええ! 全員黙らせたあああ!!!」」」
「いいってことよ、誰しも自分の子のことになれば、熱くなるものさ」
「「「しかも超絶懐が深けえええええ!」」」
·····なんてこった、ここにいる全員彼女に魅了されちまった。
「よし、これでゆっくり飯が食える」
「·····あっ、アルミナ様、さっきのは一体·····」
「ん? あぁ、同調テレポートの事か。あれは人を起点として移動できるテレポートさ。ランダムテレポートと違って、ちゃんと思った通りに移動できる優れもんさ」
「なるほど·····って! いやいや! おかしいでしょ! 普通逆じゃない!? どうやって·····」
「思いの力だよ思いの、同調テレポートは人を起点とするテレポートだ、その人に会いたいって思えば思うほど成功する。あと、人を起点としたテレポートはどちらも場所になる、だからどっちも出来るんだよ」
「·····なっ、なるほど」
「ちなみに、お前さん私にバカって言ったがあれはなんでだい?」
げぇ! 聞かれてやがった!
「·····えぇ、あはは·····私がババア様に強制展開されてランダムテレポートで飛ばされたもんで」
「あはは!!そういう事か! 強制展開はその人の魔力を限界まで強制的に使えるようにする魔法なんだ、魔力量が少ないやつでも1回限り超すげぇ魔法が使えるようになるんだぜ! 」
あぁ、だからかぁ·····うちのババア様が私にその呪文唱えるの。
「そっかそっか! それで怒ったんだな! 私があのご婦人を適当な地に飛ばしたと思ったから! かーっはっは! いやいや流石にそれはないわー!」
「ははは····なんかすみません、色々と誤解して」
「あー、いいよ、いいよ。私はこんなんだから、それよりサオリこれからどうするんだ? もし行き先が決まってなかったら、この先にあるリゾート地にある別荘に住んでもいいぞ?」
「あっ、·····ああ、もうなんか、すみません·····生きててごめんなさい·····」
「えぇ!? なんで大粒の涙流してんの!?」
自分が恥ずかしぃ! こんな女の中の漢みたいな方に文句ばかり言って!
この人は救いの英雄だ! どうか神様今までの私をお許しください! これからは、彼女に忠誠を誓います!
「ごべんなざい、あるびなざま·····!」
「うわああああ! 泣かないで! へい! エリー! ハンカチ!」
「自前の用意してください、まったく·····」
「ほら皇族御用達のシルクのハンカチーフですよ~これで鼻チーンしましょうねぇ~」
「うぐっ、えっぐ! チーン!」
「たっ、大変だぁ!!!」
私が鼻をかんだ音と、店のドアが開いた音が被った。
「まっ、魔王軍が攻めてきた!!!!」
おおっと神は私を見放した。
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