覚醒したら強いんです私

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覚醒したら強いんです私

「ぎゃーっはっは! 殺れ! 盗め! 壊せ! 人間共は皆殺しだー!」 「ひゃっはー! 女子供は連れて帰れ! 奴隷にするぞ!」 「まったく、秩序がないものだ、貴様ら! 魔王様の指示を聞け! ·····魔王様、如何なさいましょう」 扉を開けると、そこに広がるのは地獄。 綺麗に敷き詰められていた石畳は滲んだ赤に犯される。 あの美しかった街はもうここには無い。 「·····何これ」 怖い、あれが魔族·····嫌だ、あんなのと戦えないよ! 手と足がもう見ただけて震えて使い物になんない! 「·····殺せ、ここにいる人間全てだ!! 性別年齢問わずここにいる奴らお前達の好きなように殺せ!」 「「「はっ! 魔王様!」」」 「·····ジュドーの野郎、あいつ!!」 「消します」 あの魔王を怖い顔で睨見つけるアルミナ様とエリーさん。 「·····いる、いるぞ」 「どうしたんですか、魔王様」 「あいつの声がした·····すんすん、あの女の匂いもする!! どこだ、どこだ! アルミナあああああああ!!!!」 「「「きっしょー!!!」」」 言動と顔がキモすぎて思わず叫んでしまった。 さっきまでの、恐怖が嘘のようにその時だけ吹き飛んだ。 アルミナ様もエリーさんもさっきまで出てた殺意が消えている。 「きっも! なんだアイツ! 私の小さな声も聞き取ったのか!? つーか、匂いって! そんな臭いか!?」 「大丈夫です! 柔軟剤のいい香りがしますから! それより、あの男、魔王に侵食さても自我を保ってるとかどんだけアルミナ様ことが好きなんですか!」 「って! 2人とも言ってる場合か! 後ろ! 後ろ!」 「「げっ」」 騒いでる2人は恐る恐る後ろを振り返る。 「·····見つけたぞ、アルミナ」 「ぎゃー!! エリー! へいぱす!」 「何がパスじゃ! アルミナ様を求めてるんですよ! さっさとこいつ浄化しろ!」 「久しいなアルミナ。従者を増やしたのか」 びくっ! わっ、私を見てる!? 「サオリ様、隠れてください」 「お初お目にかかります、元ハテン皇国聖騎士団3番隊隊長兼アルミナ・パペットの婚約者、ジュドー・オラトリオでございます、以後お見知り置きを、空色のレディ」 「何がレディだ気色悪い」 「ん? 嫉妬かアルミナ」 「ざけんな! 殺すぞ! ただなぁ、女の子をレディって呼んでいいのは私だけだ!」 それは違ぇ! 「やれやれ、相変わらずトンチキだな。そんなお前を愛せるのは俺しかいないのに」 「勝手にほざいてろ! 私はこれでもモテるんだぜ!? お前のせいで、イケメンの王子との縁談が何個破談になったと思ってるんだ!」 あっ、アルミナ様の殺意が増した。 「ははは!! 別にいいだろう! このイケメンジュドー様がいるんだぞ! 他の男なんて要らないだろう! 俺と婚約してたのに他の男に惚れるなんて····はぁ、惚れっぽいのは完璧なお前の欠点だよ」 「どこがだ! 鏡見ろ!! ピンクの深海魚見てぇな顔しやがって! つーか、お前と婚約したのはうちのオヤジ様とてめえのパパの友情のおかげだ! 私がお前に惚れた事実はない!! 」 鬼のような形相でブチギレるアルミナ様。 「そういや、アルミナ様が婚約した時の話って聞いた事ないや·····」 「そりゃそうです、国のトップシークレットですから。皇帝陛下が騎士団長のボイコットを鎮めるために、この婚約を承諾したのですよ」 「はっ?」 「アルミナ様は幼い頃から、人望のある方でした。そんなアルミナ様に惚れた、ジュドー君はずっとアルミナ様にアプローチを掛けていましたが、アルミナ様はそれを無視、そんなある日アルミナ様は鼻くそほじりながらジュドー君を罵倒、それが彼のお父様の耳に入り、お父様は仕事をボイコット、『働いて欲しくば息子を姫と婚約させろ』と要求してきたわけです」 「·····うっわー何それ·····色々と酷いな」 「えぇ、ですから国民には伏せているのです。当然アルミナ様は嫌だと皇帝陛下と拳を混じえお城を半壊させましたが」 ·····容易に想像できちゃうなぁ 「ですが、ジュドー君のお父様は国の騎士団長。しかも、陛下の親友だったのです、結果陛下は男の友情を取り、姫様をジュドー君と婚約させたのです」 うん、アルミナ様が婚約破棄した気持ち分かる。 なんちゅう自分勝手な話だ! 「たっく、お前が幼馴染のせいで私の人生ぶち壊しだ! しかも、振ったくらいで闇に落ちやがって! お前のせいで私は世界を破滅に近づけた女って一部から呼ばれてんだぞ!」 「それほどお前を愛していたのに、お前が俺の愛に答えなかったせいだ。自業自得だ」 アルミナ様の血管が切れた。 「殺す」 凄いスピードで剣を抜き魔王に切り掛る。 「なんの!」 彼女の剣を受け止め弾き飛ばす魔王。 「魔王様! 皆の者! 魔王様を御守りしろ!」 「アルミナ様! 雑魚は私が!!」 「頼んだ!」 「気をつけろ! その女も手練だ!」 無力な自分の前で繰り広げられる、ハイレベルな戦闘。 これもしや大勇者時代は終わるんじゃないか? ·····あっ、アルミナ様ー! がんばぇー! 私帰りたい! おうちに帰りたい! 「ぶはははは!! アルミナァ! 王都のように木っ端微塵に吹き飛ばしてやるわあああ!!」 「·····今なんつった?」 魔王の一言に思わず剣を下げるアルミナ様。 「えっ、嘘でしょ!? そんな、まさか!」 「本当だ、空色の少女。王都は俺達魔族が潰した」 心が打ち砕けるほどの圧倒的絶望。 頭が真っ白になった。 「貴様の父上も大したことなかったなぁ、昔とは大違いだ」 「·····お前ぇぇえええええ!!!!」 怒りに任せてアルミナ様は剣を振るう。 「アルミナ様っ!!」 「人のこと心配してる暇か! メイド!」 「くっ!」 は、はばばばば、滅茶苦茶やばい。 隠れてって言われたけど、私も戦わないと····· でっでも、私この人達を助けられるのかな····· クソ雑魚だし、この2人より絶対弱いし。 それに、あんな強いのと戦うのなんて怖いし····· 「あぁ、安心しろアルミナ、殺してはいない。トドメを誘うとしたら、勇者一族の奴らにどっか連れていかれてしまったからな」 「それがどうしたああああああ!!」 「あぁ、アルミナが俺しか見ていない、他のやつのことなんて気にせずただ、俺の事を考えて、俺に触れてくれる、ようやく二人っきりで交わることが出来たなアルミナ」 「·····死ねぇぇえええ!!! ジュドぉぉおおおお!!」 魔王の気持ち悪い囁きなどものともせず、彼女は全ての力を使って殺しにかかってる。 剣に炎を纏わせ斬り掛かり、なんどもなんども剣を振るう。 「·····はぁ、無駄だアルミナ、俺はお前より強くなった」 その攻撃がただ彼女の体力を消耗しただけの無駄な動きと言わんばかりに、彼は彼女の剣を小指で止め、彼女に触れることなく彼女を吹き飛ばした。 「あっ、アルミナ様ぁ!!!」 「·····さっ、サオリぃ、隠れてろって·····」 「だっ、だって! アルミナ様が!」 「ごちゃごちゃ、言うな·····お前、戦えねぇなら、出でくんな·····お前に死なれたら、私が戦った意味が·····」 「かーはっはっ!! 水色! 余程アルミナに気に入られてんな! 嫉妬しちゃうぜ! その平凡な女に何があるんだよ!」 「うっ、うるさいなぁ!!」 「何も出来ない一般人が、しゃしゃるな。どけ、アルミナは俺のものだ」 「どかない! その汚い手を戻して家に帰れ!」 アルミナ様を守る為にジュドーの前に立ち塞がる私。 ひぃーん! 怖いよー! なんでこんなとこしちゃったの!? 逃げればよかったじゃん! 何も出来ないんだから逃げなさいよ私ぃ! 何に期待してんの!? なんのプライドがあるのよ! 私なんかがこいつに適うわけないじゃん!! うわぁーーん!! 死にたくないよー! でも、アルミナ様をこのまま死なせたくないよー! 「·····なぜ貴様アルミナを守る? 貴様にとってアルミナなんなのだ? ただ自国の姫では無いのか?」 「そっ、そうだけど·····そうだけど!!」 出会って数時間の付き合いで、破天荒で、色々思うとこはあるし、私を旅に出させた原因だけど·····でも! 「だけど私! あの人に忠誠を違うって決めたから!!」 「·····そうか、なら、その忠義を通して死ね」 「こっ、殺せるものなら殺してみろ!! 私は·····」 「プルプル子犬のように震える女がなんだ? 俺に適うとでも思ってるのか?」 「勇者一族末裔! フジワラ・サオリだ!!」 いっ、言っちゃった~!!!! テンションに任せて言っちゃったー! どうしよ! みんな目を丸くして私を見てるよ! 「·····くははは!!! だからか、だからアルミナが気にかけてたのか·····あぁ、そうか! 貴様か! 貴様があの、落ちこぼれか!!」 「げぇええええ! なんで知ってんの!?」 「ふはははは! 勇者一族が王都に何人いると思ってるんだ! 色んなやつが言ってたぜ? 1番末の娘はフジワラ家の恥だって!」 やっべー恥ずかしい。 なんで名乗りをあげた私。 はったりで何とかなると思ったけど全然ならなかったー。 ここで一句、弱き者、見栄を張っても、恥なだけ(爆笑) 「ちきしょう! 知られていても関係ない! わっ、私だって勇者の端くれ! なんか都合よくご先祖さまの血が覚醒して強くなれる·····はず!! だから·····かかってこいやぁ! ブ男!」 「誰がブ男だ! 消し炭にしてやる!!」 ひいっ! マジでお願いします! 頑張れ私! ババアズブートキャンプを思い出せ! 「·····サオリ、よく言った」 「へっ、アルミナ·····様?」 「覚醒させてやる」 倒れていたアルミナ様が不敵に笑い、フラフラと私に寄りかかる。 「強制展開」 眩い光が私を包み込む。 「なっ、なにいっ!」 「ゲートオブヘブン!!」 アルミナ様が呪文を唱えると、私の手が勝手に動く。 ありえない力が私の中から解き放たれ、空に大きな扉が現れる。 「なっ、何いっ!! 嫌だ! ダメだ! 死ぬうう!!」 扉を見ただけで、魔王はそれに脅え取り乱す。 扉に背を向けて走るが、光の扉は開き、そこから鎖が魔王を捉えるように飛び出す。 「なっ何これ·····」 「ゲートオブヘブン·····かつて勇者が魔王を封印した技だ·····お前ら一族にしか使えねぇ最強の技だ」 「ぐぁああああ!!! やめっ、やめろぉぉお!! まっ、マコトぉぉお!!」 すっ、凄い! これ、私の力なの!? やったー! 覚醒した私強すぎ! 魔王があっちゅう間に虫の息! このままいっ····· 「えっ、あれっ·····」 目の前がぐにゃりと歪む。 私の足も力が抜けて倒れ込む。 その瞬間魔王を拘束していた鎖はパキンと音を立てて弾け、扉も消滅した。 「ちっ、魔力切れか·····私の魔力全部やっても·····1分しか持たなかったか·····」 「かはっ、あっ、あああああ!! ·····あああああああ!!!」 術から逃れた魔王は奇声を発しその場から消えた。 それを見た魔族達は慌てて自分たちも姿を消した。 「·····やった·····の·····」 そして私の意識はそこで途切れた。
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