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智恵子は最近、夫の帰りが遅かったり、残業が増えた事に気が付いてはいた。
しかし、そのおかげで給料も増えてるし、まぁ良しとしていた。
夕飯が済み2人で片付けをしている時、おもむろに肇は話しかけた。
「智恵子は、僕のプロポーズの言葉、覚えている?」
「何?急に」
「僕が君を一生支える。お金には苦労させないから、僕のお嫁さんになってください。って言ったんだよ」
「もちろん覚えているわよ。専業主婦で良いって」
「でも贅沢させてあげるだけの稼ぎも無くて、ごめんね」
「良いわよ。働かなくてもなんとか生活出来てるし。何より私の事をずっと愛してくれてるでしょ?」
智恵子の全く疑いもしない瞳に、肇は真っ直ぐ顔が見られなかった。
(智恵子、ごめん。でも僕は約束を果たすよ)心で謝りながら
「智恵子、再来週の日曜日。知り合いと出かける事になったんだけど、車出してくれるかな?」
「え?良いよ。誰と出かけるの?」
「最近知り合った人なんだけどね。ギリコノ山に行くんだよ」
「登山?そんな趣味あった?」
「まぁたまたま。ちょっとしたきっかけがあってね」
肇と誠司が山登りする日がやってきた。
例の登山用品のお店の前で待ち合わせた。
店の前には誠司が待っていた。
そこに智恵子が運転する車が、到着する。
「おはようございます!いいお天気で良かったですね!」
助手席から降りて、明るく挨拶する肇。
「こちらこそ。車出してもらえてありがたいです」
誠司も爽やかな笑顔を向ける。
どう見てもDV夫には見えない。
山の麓までは、3人で世間話をしながら和やかに過ごした。
誠司は「うちの妻が、パート仕事始めたんですが、生き生きとしていて楽しそうな職場で良かったですよ。心配だったので」と話せば
「あら、私は専業主婦が条件で夫と結婚したんです。仕事するなんて偉いわ」と笑う智恵子。
「心配なのは奥様をそれだけ愛してるって事ですよね?」と肇は言う。
麓に到着すると、肇と誠司は車を降りた。
肇は「家に帰ったら、僕のデスクの引き出しの中身を確認しておいてね」と智恵子に告げた。
智恵子は何のことかわからずも
「うん。わかった。気をつけて行ってきてね」
「智恵子もね。じゃあね」
「ありがとうごさいました。気をつけて」誠司も声をかけた。
2人の男は、智恵子の車を見送った。
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