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妖神 其の四 【メリーさんの電話】(小説編)
「ねえ。今どこにいるの」
少女は兄の持ち物である携帯電話を手にすると、そう訊かれた。
女の声で。
日曜日の午後を少女・蛍子は、兄と二人で留守番をしていた。
やや吊り気味の大きな瞳に、短めの髪をシンプルにまとめ上げたポニーテールに結んだ、ボーイッシュな雰囲気の少女だが、整った目鼻立ちは可愛らしい顔をしている。
快活で勝ち気な性格をしてはいたが、誰に対しても優しく接し、思いやりのある子だ。
蛍子は、台所に置いてあった兄の携帯電話が鳴っているのをみかけた。
小学四年生の蛍子には中学一年の兄がおり、家族への連絡用ということで携帯電話を持っていた。
電話が鳴っていた時に思ったのは、仕事で出かけた母親からの連絡かと思い手にしたが表示は登録されている母親の名前ではなく登録の無い電話番号の羅列になっていた。
もしかしたら宅配業者による在宅確認かと思い、何気なく蛍子は電話にでたのだが、そこから聞こえてきたのは業者名の名乗りではなかった。
女の声。
相手は兄だと思い話しているのか、蛍子だとは気がついていないのか、馴れ馴れしく甘えたような声で聞いてきたのだ。
今、どこにいるの
と。
蛍子が怪訝な表情をしているにも構わず、女は続ける。
「わたしね。今、駅に居るの」
そう言うと、電話は切れた。
ツーツーツーという、終話音がしたので、蛍子は電話を切った。瞳は困惑の色に染まっていた。
それから沸騰するように感情が沸き立つものがあった。
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