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日が沈むと、自転車で切る風が肌寒い。ここ数日で急にひんやりと移り変わった空気に奈央は、うまくいかない自分自身を重ねてしまって身体の中まで肌寒い。
結局、帰り道で「僕が持ってる婦人科の教本で勉強するといいよ」と中野に言われ、そのまま部屋へ立ち寄ることとなった。
「夕ごはん、どうする?」
「勉強しなきゃだし、家に帰って食べま……るね」
二人きりのときは砕けた口調で話すことを決めているのに、仕事終わりには切り替えがうまく出来なくて、いまだに慣れない奈央はぎこちない。
「食べまるって」
くつくつと笑いながら玄関の鍵を開ける中野の横顔がいつもと変わらぬ柔らかさをみせていることに、ちくりと胸が痛む。
背中で扉を閉めて、部屋に二人きりになったとたん、先日の出来事が思い出されて心臓が一度ドクンと鳴った。
それに気づいているのかいないのか、中野は普段通りの雰囲気を纏ったまま、クローゼットの前に置かれた本棚から数冊の大判の本を取り出す。
「最初はこのあたりを読むといいよ。わからないことがあったら聞いてくれてもいいし」
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