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「ただの噂、か。その噂にみんな、左右されているんだよな」
俺の思ったより冷たい声に渚がビクッとする。
「……秋穂、ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないんだけど」
さっき渚が言った言葉を今度は俺がそのまま返した。歩き始めても渚が追いかけて来ることはなかった。
俺は元々目つきが悪く、中学の時はそのせいで悪い噂を立てられていた。高校からは、その目を隠すために前髪を伸ばして覆っているのだが、それはそれで根暗だとか言われている。
そして最悪なのは、中学で同じだった奴らがなんの恨みがあるのか、その時の噂を言いふらしていることだ。それは真っ赤な嘘なのだが、その噂を信じたクラスの人からは敬遠されてしまっている。
そんな俺と一緒にいると渚はもちろん、朝陽にも悪い噂が立ってしまう。だから俺は、二人に会わないように早い時間の電車に乗っている。
だが今日、渚に乗る時間と理由がバレてしまった。さらに早い時間にしないとと考えながら歩く俺に、誰かが後ろから思いっきりぶつかってきた。
ぶつかってきた人は渚で、俺の二、三歩先で止まると振り返り、俺を睨みつけながら言う。
「秋穂がどれだけ壁を作ろうとしても、わたし達は色んな手段で壊すよ。うざいって言っても離れないから!」
何なんだよ、この子は。俺の心の奥の深い部分を突いてくる。……でもどこかでその言葉を俺は欲しがっていた。
「それじゃあレッツゴー!」
と、渚は俺に近づき、腕を掴んで歩き出す。
「レッツゴーって、もう着いてるけどな」
こうやってしょうもないツッコミを入れないと、渚の隣で泣いてしまいそうだった。
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