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動かなくなった渚の代わりに先輩がカードを手に取り、表向きにする。
「……百人一首だな」
先輩がそうポツリと言うと立ち上がり、俺達から離れると、百人一首片手にポケットからスマホを取り出し弄りだす。意味を検索しているのだろうか?
すると先輩はこちらを向き、渚に話しかける。
「藤倉さんは、盗まれたものがないか調べて」
先輩に話しかけられた渚は振り返り、頷く。
「はい」
淡々と無表情で調べている渚を見ていると心苦しくなった俺は、渚の隣に行きしゃがみ込む。さすがに顔の見えない犯人に二日連続は不気味なはずだ。
だがかける言葉が見つからず、俺はただ渚の横にいるだけになった。こんな時に言葉が出てこない自分自身に腹が立つ。
調べ終わった渚は一人頷き、先輩の方を向く。
「何も盗られてません」
「そうか。とりあえずは、よかった」
先輩も頷き、渚の緊張をほぐすために微笑んだ。だがすぐに表情を引き締め、教室をぐるりと見渡す。
「ここにいるみんなに聞きたいことがある」
急に三年生の先輩が話したことで、教室中の全員の視線がこちらに注がれる。
「最初にこの教室に来たのは誰かな?」
「ぼく、ですけど?」
と、手を挙げたのは柊玲央。学年一の秀才と呼ばれている人だ。
「君は今日来たとき、何か違和感はなかったか?些細なことでも何でもいい」
「はい?ないですよ」
即答だった。
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