感性

1/1
前へ
/8ページ
次へ

感性

 紗良(さら)の中には、年齢相応の願望も、欲求も存在はしている。けれど、妄想に(ふけ)(うれ)うような感性を、持ち合わせていない。ただ、この環境に身を置いていることで、攻撃性と破壊性が、助長されているような感覚はある。  人間関係を築けないのなら、他の生物のように、捕食者(ほしょくしゃ)被食者(ひしょくしゃ)の関係でいられるなら、どれほど楽か――。  人類(じんるい)以外の動物(どうぶつ)昆虫(こんちゅう)は、近くで不用意(ふようい)に動くものを、獲物(えもの)認識(にんしき)し、捕食(ほしょく)する。同属(どうぞく)であろうと、()らう(しゅ)も存在する。ハムスターは、肉食動物(にくしょくどうぶつ)ではない。けれど自分が産んだ子を食べる。  (あり)は、親である女王蟻(じょおうあり)(こと)なれば、共食いする。蟷螂(かまきり)(めす)は、(おす)(えさ)と認識する。(おす)の頭を食べてから交尾(こうび)を始めたり、交尾(こうび)後に(おす)を食べる。  それに引き換え、人間の行動は特異(とくい)(した)しくない間柄(あいだがら)にも(かか)わらず、安易(あんい)近付(ちかづ)く。目的無く関わりを持ち、惰性(だせい)で〝友達(ともだち)〟という()れを()す。  紗良(さら)も例外なく、初対面の同級生に『新しいお友達』として紹介され、学校という社会の中で、友達の輪に組み込まれる。  (がん)は、自覚したときには手遅れだという。  紗良(さら)は今まで、こんな生産性の無いことに、思考を巡らせることは無かった。考える価値が無いとわかっている思考に、脳内を支配されていると自覚してしまったから、もう手遅れ――。  手遅れであることを受け入れた後、紗良(さら)の抑うつ状態が加速する。  人間特有の行動――親身(しんみ)()りをして、(おとしい)れ、裏切る。(うそ)()く。  自衛(じえい)や捕食以外(いがい)の目的で、同属を傷付け、殺める。詐欺、脅迫(きょうはく)、強盗、暴行(ぼうこう)傷害(しょうがい)殺人(さつじん)――いずれも、人間特有の犯罪行為(こうい)。  弱者の犠牲(ぎせい)の上に、強者(きょうしゃ)が栄える。人間社会も一見(いっけん)弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)法則(ほうそく)(のっと)っているように見える。  しかし身体能力(しんたいのうりょく)ではなく、努力ではどうにも出来ない〝環境〟により、優劣(ゆうれつ)が決まる点が、他の生態系(せいたいけい)と異なる。  例えば〝差別(さべつ)〟。個人の能力とは無関係に、優劣が決まる。有色人種(ゆうしょくじんしゅ)を、白人に比べ(おと)っているとし、迫害(はくがい)する人種差別。男性を優遇する男尊女卑(だんそんじょひ)。人種や肌の色、性別による多種多様な差別が、人間自身により設けられている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加