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約束を残して、願いを叶えて。
三日後の夜。
私は四年前のあの日と同じ時間に、彼の家のベランダに座っていた。
「――ほんと、人使い荒いなあ」
呟いて、すでに空いているラムネの瓶を開ける。
部屋には誰もいない。ご両親は今、彼のいる病院に向かっていたから。
「まさか、この夏にやっと手術するなんてね」
だからもし私が帰ってきたら、見て置いてほしい、と。
それが透哉からの伝言だと、彼のお母さんが言っていた。
どうしてそんなことを頼むのか。……理由は一つ。
「最初の花火の色、だよね」
彼はあの日、言っていた。一番最初の色は赤がいい、と。
まるでそうだったら、願いが叶うのに、と言わんばかりに、切実だった。
「だから今年は、絶対赤色にしてよね」
そうつぶやいて、またあの日のようにデジタル時計に目をやった。
時刻は夜七時五十七分。あと少し、と夏祭りに目をやる。
夏祭りは正直、あまり賑わってはいなかった。
屋台も少ないし、人もちらほら歩いているだけ。世の中のこともあるから、スタートも遅くて、食べ物もほとんど売ってはいなかった。
匂いも喧騒もない、寂しい祭りがそこにある。
――それでも、あの日と同じ灯りがあるんだ。
ひゅるるるる、と音が聞こえた。
ハッと顔をあげ、紺色の空を通る線を見つめる。
長い、長い時間をかけて、それは登り切った。
――お願いっ!
……パァンッ!!!!
瞬間、空に広がった大きな花は、みごとな赤色に輝いて、降り注ぐ。
「……ああ、」
口から息が漏れた。
キラキラと輝く花に続いて、いくつもの花が咲き乱れる。
「――……どうか、」
次々と咲いては消えるそれを見つめながら、ポツリと一つ、つぶやいた。
「……この膝下に落ちてこい」
――透哉の願いを叶えるために……。
ポタ、とラムネの瓶を伝って、水滴が落ちた。
音もなく、ポタ、ポタと落ちる中、花はただ消えるまで、いつまでも紺色の空に咲き続けていた。
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