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ー 夕食後 ー
「お風呂上がったよ。次凛太でしょ?」
「うん、これだけ終わらせたら入る」
凛太の部屋を覗くと、現代文のプリントとにらめっこをしてる最中だった。
「今、どこを勉強してるの?」
「舞姫」
「あー、その話面白いよね」
私の発言に、凛太は眉間に皺を寄せる。
「全然分かんない。まず森鴎外の年齢設定可笑しいじゃん」
「え、そこ?」
「大体、主人公の気持ちなんか本人以外分かんないのに、なんで考える必要があるんだよ」
「それが小説の醍醐味じゃない。読んでいる時だけは、翼が生えたみたいに心が自由なんだよ」
「…自由」
凛太の眉間の皺は、余計に濃くなった。
考えすぎて、苦しくなってきたのかもしれない。
「凛太、大丈夫?」
「鈴音は、自由になりたいとか思うのか?」
「え…?」
改めて問われると、私の自由とは一体何だろう。
「私は…、自由な書を読み、自由な事を言ひ、自由な事を書かんことを希望いたし喉」
「何、それ」
「夏目漱石の言葉。私の自由はこれかな」
「へぇ」
心底、興味がなさそうだ。
「聞いてきたのそっちでしょ。じゃぁ、凛太の自由ってなんなの?」
「俺の自由は…」
凛太は、子どものような目ですがるように見つめてきた。
どうして、そんな顔をするのだろう。
「どうしたの…?」
「俺の自由は、誰にもなんにも囚われずに好きと伝えるられること」
「それは」
「なんてな。少しカッコつけてみたわ。じゃぁ、風呂入るから、鈴音も早く寝ろよ」
これ以上聞くことが許されない気がして、私は言葉を飲み込んだ。
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