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夏祭りの夜
日々は過ぎ、気が付けば八月に入っていた。
さすが高校三年生。
受験勉強で夏休みがここまで終わってしまった。
不穏になりながら家で横になっていた私の元に、友達から電話がかかってきた。
「もしもし」
『鈴ー、心から君に会いたいよー! それで、今何してる?』
この元気っ子代表のような人は、中学生からの友達で水野瑠花。
「受験勉強してた」
『せっかくの夏休みなのに、勿体ない! それなら、今日お祭りに行こう! 梓も誘ってみて、大丈夫だったら三人で行こうね』
梓とは、高校で仲良くなった友達の須藤梓。
ファーストフード店のバイトリーダーをしているので、夏休みは忙しいらしい。
「お祭りか…」
『あれ、もしかして予定あるの?』
「ないよ、楽しみ。梓も行けるといいね」
『良かった! じゃぁ、また後で』
祭りなんて、もう何年も行っていない。
最後に行ったのは、母親が再婚した年の夏だった気がする。
まだぎこちない家族四人が、初めて出掛けたイベント。
そして、凛太が始めて目を見て話してくれたのも、あの日だった。
少し離れた場所で上を見上げていた私に、
「音、うるさいな」
そう言ったのだ。
何故かあの日、空に咲いた花火が自分たちを応援してくれているみたいで、目頭が熱くなったのを覚えている。
「お母さん、今日お祭りに行くことになったから、夕飯いらない」
階段を下りて、キッチンに声をかける。
「あら、それって隣町の?」
「そうだよ」
「凜ちゃんも、友達と行くって言ってたわよ」
「そっか。会うかもね」
凛太は二度と来ない高三の夏休みを、ここぞとばかりに堪能している真っ最中だ。
果たして、受験勉強は大丈夫なのだろうかと心配になる。
「気を付けて行っておいで」
「ありがとう。鈴カステラ買ってくるね」
「お土産なんていいわよ」
母はそう言いながらも、嬉しそうに笑う。
少しだけ、目尻の皺が増えた気がした。
それだけ、たくさん笑っているのだろう。
「…ねぇ、お母さん」
「ん?」
「浴衣って、ある?」
「見せたい人でもいるの?」
「そんなんじゃないけど、夏だから…」
「そうなのね。可愛いのがあるから、着付けてあげる」
本当に、そんな風に思った訳じゃない。
ただ、あの時は私服だったから。
何となく、浴衣を来ていけば良かったと今でも後悔していたから。
ただ、それだけ。
「ありがとう」
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