夏祭りの夜

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 母が着せてくれたのは、薄水色の生地に白と桃色の桜が描かれている大人っぽい浴衣。  鎖骨まである黒髪を低めのお団子に結い、飴玉みたいな飾りが付いたかんざしを差してくれた。   「うん、良く似合うわ!」 「そうかな…。なんか、恥ずかしくなってきた」 「なんで? 折角浴衣美人なんだから、胸を張って楽しんでおいで」 「ありがとう、行ってきます」  母の言葉に背中を押され、私は扇子を胸元に入れて玄関に向かう。  姿見には、母の面影をよく移した私が写っている。  母のお下がりである浴衣のせいかもしれないけれど、それでも最近、自分でも母に似てきたと感じることが増えた。    母は、この浴衣で誰に会いに行ったのだろうか。  亡き祖母は、どんな気持ちでこれを着付けてあげたのだろうか。  今は誰も分からないけれど、きっと親子の大切な時間だったのだろう。  今の私のように。  瑠花と梓と、待ち合わせをしている公園に着いた。  この、夏の夜の独特な湿っぽい香りが、私の脳を刺激する。 『あわよくば、凛太と二人で屋台を回ることはできないのだろうか』  そんな雑念を振り払うため、何となくスマホを眺める。  けれどその甲斐は虚しく、綿菓子を持った子どもや袋を抱えた人々が前を通っていく中を見つめては、その人を探してしまう。  そんな私へ、生ぬるい風に乗せて和太鼓と横笛の音が届いた。   「鈴ー、お待たせ!」 「鈴ちゃん、遅くなってごめんね!」  黒地に大花柄の甚平を身に纏った瑠花と、息を切らした制服姿の梓が走ってきた。 「全然待ってないから、大丈夫だよ」 「それなら良かった! てか、鈴浴衣可愛いー! モデルみたい」 「瑠花、大袈裟だよ」 「いや、鈴ちゃん本当に可愛いよ。とても絵になるね」 「あ、ありがとう…」 「よし、気合い満タン!! さぁ、思い切り楽しもう!」  それから、私たちは神社を目指して歩きだした。  人で賑わう商店街を抜け、神社の敷地内に入ると屋台が立ち並んでいる。 「いい匂ーい! お腹ペッコペコだよ」 「瑠花ちゃん、先にお参りしてからにしようね」 「はーい! って、私は子どもじゃないんだけど!」  瑠花と梓のやり取りは夏休みでも健在で、相変わらずコントのように面白い。 「あ、ねぇ、あれ!」  クスクスと笑っていると、瑠花が突然足を止めて指を指した。
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