53人が本棚に入れています
本棚に追加
梓と二人でその場所を見てみると、クラスの男子数人が集まって射的をしていた。
「嘘! 人気ナンバーワンの佐倉くんもいるわ」
彼は百年に1人の王子と言われ、ファンが多い事でも有名なイケメン佐倉港。
しっかりと話したことはないけれど、以前彼が落としたペンを届けたことがある。
関わったのはそれだけで、言ってしまえば私と住む世界が違う人。
「よし! ここは、三人で声をかけてみようっ!」
「うん!」
瑠花の言葉で、イケメン好きの梓も行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って!」
一人浴衣の私は、もたもたしている間に置いていかれた。
そして、どんどんと人に流されていく。
もしかしなくても、これは思わしくない状況なのではないか。
やっとの思いで人混みを抜けたが、神社の裏手まで来てしまったようだ。
人通りも少なくなり、うっそうと繁った木が不気味な雰囲気を醸し出している。
灯りもほとんどなく、鳥の鳴き声にすら驚いてしまう。
「だ、大丈夫。来た道さえ覚えていれば、きっと戻れる…」
言い聞かせるけれど、恐怖心は消えてくれない。
半泣き状態になった時、巾着袋の中で着信音が鳴った。
「も、もしもし」
「鈴? 今どこにいるの?」
電話の主は、珍しく慌てた声色の瑠花だった。
「人混みに流されて、神社の裏手まで来ちゃった」
「そうだったの!? 気付かなくてごめん! 今梓と向かうから待ってて!」
助けに来てくれると分かり胸を撫で下ろすと、足の親指に痛みが走った。
石段に腰を掛けて草履を脱ぐと、鼻緒の辺りで靴ずれが起こっている。
「たくさん歩いたからかな…」
母が持たせてくれた絆創膏を、試行錯誤しながら張ってみる。
心なしか、少し痛みが和らいだ。
でも、このまま座って待っていようと思う。
下手に動いても良くない上、疲れて足が重たい。
「はぁ、結局凛太に会わなかったな」
会ったところで何をするわけではないけれど、欲を言えば浴衣姿を見せたかった。
私の想いと共に、真夏の夜の風に浴衣のすそが儚く揺れた。
最初のコメントを投稿しよう!