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「仕方ないか…」
「何が?」
独り言に突然質問をされて、驚いて顔を上げる。
「中村さん、ここにいたんだ」
「え、佐倉くん? どうしてここに」
もしかして、彼も友達とはぐれたのだろうか。
「はぐれたって、水野さんたちに聞いたから。女子で行くより男が来た方が安心だと思って」
「そうだったんだ…。ありがとう、佐倉くんにまで迷惑を掛けてごめんね」
「いや、俺が来たかっただけだから」
「え?」
「あ、えっと、ほら心配で」
「あ、あぁ、そうだよね!」
私の分際で、何をドキドキしていたのだろう。
笑って誤魔化したけど、恥ずかしい。
佐倉くんが歩きだしたので、私も歩みを進める。
けれど、足が痛くて彼の歩幅には追い付かない。
「中村さん、足痛いの?」
異変に気付き、佐倉くんが振り替えって問いかけた。
「…えっと、ちょっとだけ」
「そうなんだ、気付かなくてごめん。乗って」
そう言って、私の前で彼は背を向けたまま屈んだ。
「え!? いやいや、重たいからいいよ!」
「そんなことないと思うけど。じゃあ、俺の手掴んで」
「それもちょっと…」
返事に困っていると、彼は自ら手を伸ばして繋いできた。
「えっ…」
「人混みに行くまでの間だけでも。それでも嫌だったら離して」
「い、嫌じゃないけど…、いいの?」
暗闇でよく見えないけれど、佐倉くんの耳が少し赤い気がした。
もしかしたら、凄く勇気を出してくれたのかもしれない。
今は、彼の優しさに甘えようと思う。
「ありがとう」
そう伝えたけれど、私は可笑しい。
目の前に学校で1番かっこいい人がいるのに、頭の中には凜太が出てくる。
あの忘れられない、昔の記憶。
高一の頃鍵を落として困り果て泣きそうな私を、凛太が励まして手を繋ぎながら、一緒に探し回ってくれたことがあった。
その暖かさと優しさが、不思議と心を落ち着かせてくれた。
「…なんか、懐かしい」
「懐かしい?」
「あっ、突然変なこと言ってごめんね」
「いや、全然」
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