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日常
ー 四年後 ー
「鈴! 凜くん! 朝だよー!」
中村家の日常は、母のこの一声から始まる。
「おはよう、鈴音ちゃん」
「おはよう、お父さん」
母が三年前に再婚した相手はとても優しくて、私が『お父さん』と呼ぶと、未だに照れ笑いをするような人だ。
「お母さんもおはよう」
「おはよ、鈴。早くご飯を食べなさい」
「はーい」
促されるまま、私は席につき朝食を食べ始める。
寝ぼけた頭で食パンをかじっていると、少し遅れて2階から弟が下りてきた。
「親父、母さん、おはよ~」
「凛太、相変わらず凄い寝癖だな」
「元気な証拠よね。ほら、凜ちゃんも食べなさい」
「いただきます…」
隣に座る弟は、母の再婚相手の連れ子。
私たち家族は、他の家庭より少し複雑だ。
でもきっと、そんなことは言わない限り、誰が見ても私たちは仲の良い家族。
「凛太、おはよ」
「鈴音、いつ起きたの?」
「十分前くらい」
「早いな」
「そんなに変わんないよ。それじゃ、ご馳走さまでした」
そして、仲の良い姉弟。
私は制服に着替えてリビングへ行く。
市内の普通科高校に通っているので、自分はセーラー服だ。
三年生なのでスカーフの色は薄水色。
しばらくすると、学ランに身を包んだ凛太が下りてきた。
凛太は、隣町にある工業高校に通っている。
意外と近くなので、毎朝途中まで一緒に登校するのが日課だ。
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてな」
両親から見送られ、家を出る。
夏休みが目前に迫った七月中旬。
既に外は暑かった。
蝉の大合唱は朝から盛り上がっていて、私たちはそのBGMを背に坂道を上る。
「今日も暑いね」
「だな。熱中症に気を付けろよ」
「凛太もね」
「おう、じゃぁまた」
「うん、また家で」
すっかり慣れた、この人との距離感。
最初の印象が最悪過ぎたせいか、こんな風に仲良くなれたことが奇跡のようだ。
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