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十九時を回る頃には、二人とも帰ってきたので全員で食卓を囲む。
「「「いただきます」」」
「どうぞ、召し上がれ」
「うん! 今日も美味しいよ霞さん」
「良かった。徹さんも、子供たちに負けないでたくさん食べて」
こちらが恥ずかしくなるくらい、両親は仲睦まじい。
そんな二人が出会ったのは、研修会だったらしい。
当時、母は私に裕福な暮らしをさせたいと、証券を始めていた。
その講師として来ていたのが、父だったそうだ。
子どもの年齢が一緒で、シングル同士の悩みを相談することも多く仲良くなったのだとか。
以前、二人は私たちに言っていた。
「あなたたちは、恋のキューピットだね」
悪い気はしないけど、少し背中がくすぐったかった。
「鈴音ちゃん、もういらないのかい?」
「え? あぁ、違うよ。何か二人を見てたら微笑ましくて」
両親は顔を見合わせると、照れら笑いをした。
「あ、そうだ、子供たち」
母が突然こちらに向き直る。
「何、お母さん」
「どうしたの?」
母と父はお互いを見つめ頷くと、母が言いずらそうに口を開いた。
「実は、秋になったら徹さんと二人で旅行に行こうと思ってて…」
「それで凛太と鈴音ちゃんを残していくことが心配で、やっぱり二人も誘おうと思ったんだ」
そういうことか。
私は凛太に目配せをすると、彼も頷いた。
「俺たちはいいよ」
「せっかくだし、二人で行ってきたら?」
「え、でも…」
「お母さん、まだお父さんと二人旅したことないでしょ?」
「俺たちは、適当に過ごしてるから心配しないで」
両親は、今度は顔を見合わせてはにかんだ。
「ありがとう、凜ちゃんと鈴音」
本当は少しだけついていきたい気持ちもあったけれど、この笑顔を見たら選択を間違えなくて良かったと思った。
でもこの選択が、私と凛太のタイムリミットになることをまだ知らない。
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