53人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
幼い頃の記憶の中に、うっすらと父親の顔がぼやけて残る。
私が父親を覚える前に、あの人は家を出て行った。
それから私は、母とずっと二人で暮らしていた。
ー 遡ること四年前 ー
母は幼い私を女手一つで育てながら、仕事にも手を抜かず保育士の正規職員として働いてくれていた。
寂しい日もあったけれど、一人で本を読む時間はそれなりに充実していた。
だから、こうして幸せに暮らしていられるのは、間違いなく母のお陰。
どうか、母には幸せになってもらいたいと思った。
「鈴、今いい?」
「うん。どうしたの?」
久しぶりの外食の時に、母が改まって告げたこと。
「私ね、結婚したい人がいるの」
「うん、いいよ。お母さん、幸せになって」
あの日、母の涙ぐんだ姿を久しぶりに見た。
そして、心からの笑顔も。
最初のコメントを投稿しよう!