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「それじゃ、乾杯」
チン、と軽い音がひびいた。黄金色の液体は、口の中でやさしくはじけ、のどの奥へと消えていく。
「これやばいな。とまらなくなりそう」
「とんでもなくおいしいですね…!びっくりしました」
いっきにグラスをあけてしまい、二人してすぐに二杯目をそそぎ入れた。
「明日も、お仕事ありますよね?飲むペースをおさえましょうか」
成田さんが水の入ったグラスを渡してくれる。俺は礼を言って、水を一口ふくんだ。
「なにかツマミもいっしょに持って来たほうがよかったですね」
「ナッツなら部屋にありますよ」
「お、でも足りるかな。ルームサービスでも頼みます?」
メニュー表を広げると、成田さんは「僕は大丈夫です」と首をふった。
「遠慮しないでいいのに。自分だけなんて頼みづらいから、じゃあナッツでいいか」
それからふたりでシャンパンを飲みつつ、これからの動きを話した。
「…それで、たぶん成田さんにいろんな知り合いの人から連絡がくると思うんです。ご飯いきましょうとか飲みましょうとか」
成田さんは真剣な様子でうなずいている。
「そこでご飯に行くと、俺とのことを聞かれると思うんですよね。そうしたら、俺のことをふったって言ってください。おそらくそこで話した内容が丸々記事になると思うんで」
「わかりました」
成田さんはどこか不安げな様子だった。俺は、成田さんに心配をかけまいと笑顔をむける。
「大丈夫です。きっとうまくいくんで。何かあれば俺のマネージャーに相談してください」
「マネージャーって、あの滝さんですか」
「そうです。滝は、俺なんかよりずっと優秀なんで」
シャンパンのグラスをおいて、水を手にとる。飲むペースがはやかったからか、すこし酔いがまわってきたらしい。俺は残っていた水を一気に飲みほした。
その様子を、成田さんはじっと見ている。
「滝さん、たしかに仕事ができそうな人ですよね」
「そうそう。いろんなことに気がまわるというか。ここに来るときも、『成田さんにはもう手を出すな』って釘をさしてきたくらいだし。そんなこと、言われなくてもわかってるよって感じ」
俺が笑いながら言うと、成田さんはピクリと肩を動かした。
「そうですか。やっぱりそうですよね」
成田さんが気まずそうに目をふせる。俺は横目で成田さんを盗み見た。
…これで、変な期待は捨ててくれるといいけど。
空のグラスをおいて、俺は大きくのびをする。
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか。俺はシャワー浴びてから別室に行くので、成田さんも好きな部屋で寝てくだ…」
立ちあがろうとしたところで、ふらり、足元から力が抜けていく。
「あ…れ…?」
そのままソファにくずれ落ちた。
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