第二章

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 翌朝目がさめると、頭痛も吐き気もそのまま残っていて気分は最悪だった。  …おまけに背中も痛えし。  うめきながら体を起こすと、誰かと電話をしていたらしい滝がこちらをふり返る。 「緋希、起きたのか。というかお前大丈夫か」 「大丈夫ってなにが。ぜんぜん調子いいですけど?」  滝は白い顔をして、ベッドに横たわる俺の顔をのぞきこむ。今何時だと聞くと、そんなの気にしなくていいからと滝は答えた。 「昨日のこと、成田さんから全部聞いたよ。今日は一日休んでろ。ホテルも延泊(えんぱく)しといたから」 「あいつしゃべったのか。むちゃくちゃしといて、往生際(おうじょうぎわ)はいいんだな」  ベッドサイドにおいてあった水をとって飲むと、すこしだけ気分がましになった。 「俺のせいだ。ごめん。まさか成田さんがこんなことするなんて」 「あー…気にすんな。油断(ゆだん)した俺が悪かったんだし。ていうかこういうこと初めてじゃないから。今さらなんとも思わねえよ」  俺が笑って言うと、滝の表情がくもった。 「ほんとは警察につきだしてやりたいけど、社長が緋希のイメージが下がることを気にして、穏便(おんびん)にすませようって」 「あっそ。いいんじゃねえの。好きにすれば」 「…わかった。社長には伝えとく。とにかく緋希はゆっくり休め」  滝が暗い顔でうつむく。俺がひらひらと手をふるのを見ると、ため息をついて部屋から出て行った。  俺はふたたびベッドに横たわる。  …今日はオフか。ありがたいっちゃありがたいけど、ホテル(ここ)じゃやることないし、ヒマだな。  ごろりと寝返りをうつと、ソファに置き去りにされた俺のカバンが目に入った。  …そういえば、相原に本をもらったっけ。    ズキズキと痛む背中をがまんしてベッドサイドに降りると、しまっていた一冊の本を取り出す。表紙には、黒地に白い文字で大きく『鏡像』、とだけ書かれていた。  そんなにぶ厚い本ではないけれど、ハッピーエンドとはかなり縁遠(えんとお)そうな見た目をしている。読んだらよけいに具合が悪くなりそうだ。  …まあヒマだしいっか。つまらなかったら読むのをやめて寝ればいい。ついでに相原に、時間を返せと感想でも送ってやろう。  俺はベッドに腰かけ、『鏡像』を読み始めた。そして結局は、最後までこの本を読みきった。  話の内容は少しファンタジーが入っていて、人の死期がわかってしまう主人公が登場する。彼は、自分の彼女が一ヶ月後に事故で死ぬと気づいてひどく動揺(どうよう)した。  なんとか彼女を助けたい、事故を回避したいと思いながらも、自分が未来を変えることでなにか良くないことが起こるんじゃないかと不安で悩む日々。  とうとう悩みにたえかねた主人公は、特殊能力を捨て、それまでの記憶もぜんぶ忘れて、一般人として生きていくことを決めた、というストーリー。  
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