第二章

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 途中(とちゅう)まではよくある話かと思いきや、ラストはなんとも後味(あとあじ)が悪い。  本を閉じると、俺はどんな気持ちになればいいのかわからなくなった。  『サンクチュアリ』といい『鏡像』といい、相原が書く小説は、なんというか、読み手の常識や価値観を(ため)すようなエンディングになっている気がする。  …あいつはなにを考えて、こんな話を書いているんだ?  なんとなく、相原のほかの小説はいったいどんな話なんだろう、と気になった。  マップをひらくとちょうど、近くに大きな本屋があることがわかる。俺はサイフにスマホとカードキーだけを手にもって部屋を出る。  探していた本屋に入ると、新刊が出たばかりだからか、入り口のすぐ近くには相原の特設(とくせつ)コーナーができていた。  平積(ひらづ)みからてきとうに二冊取ると、そのままレジにむかう。店員は俺の顔をチラチラと見ながら本を受け取り、それぞれバーコードを通していく。  そこで、帽子(ぼうし)とマスクを忘れたことに気づいた。  堂々とすれば意外とバレない、とだれかに聞いた覚えがあった俺は、さりげなく背すじをのばしてみる。とたんにビキビキと背中(せなか)が痛みだし、自分が負傷(ふしょう)していたことを思い出した。 「あのう。新刊は買われなくて大丈夫ですか。今ちょうどサイン会をやっていて、お買い上げの方に参加券をお(くば)りしているんです」 「サイン会?相原の?」  なに人気作家みたいなことをしてるんだあいつ。いや、人気作家なのか。相原のくせに。 「いえ大丈夫です。これだけで」  サインは心の底からいらなかったが、どれくらい人が入っているのかだけが気になり、会場の前を通って帰ることにした。  通路(つうろ)を歩いていると、つきあたりにある男性用トイレから人がひとり出てきた。まさかの相原本人だった。気づくのが遅れた俺は咄嗟(とっさ)に足をとめるも、不自然に固まった状態で目が合ってしまう。  相原は目を見開き、俺の顔と手元を交互(こうご)に見た。 「入江…お前もしかしてサイン会に来たのか」 「ちげえよ。鳥肌が立つことを言うな」  俺が持っていた本のタイトルを確認すると、相原は怪訝(けげん)そうな顔をする。 「ああそれ買ったんだ。この前あげた新刊の方は読み終わったのか」 「まあね」 「お前、読むスピード結構はやいな。どうだった?せっかくだし、感想聞かせろよ」 「どうって言われても」 「なんでもいいよ。思ったことで」
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