第三章

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 俺は奥歯をきつくかみしめる。 「だいたいてめえ、よく俺の前に顔出せたな。親父から接近禁止って言われてたの忘れたか」 「今日は大目に見てよ。僕も兄さんも、ゲストとして呼ばれただけだし。…それに」  倉木は、俺を腕の中に閉じ込めるように、両手を台についた。俺より頭一個分も背が高いこの男は、身をかがめ、俺の耳もとに唇をよせる。 「接近禁止なんてひどいよね。僕は、ただ兄さんを愛してるってだけなのに」 「やめろっ!」  突き飛ばそうと振り向くが、倉木はそれよりもはやく後ろから俺を抱きしめた。耳に唇がふれ、直接息を吹き込まれるようにささやかれる。  全身に鳥肌が立ち、イヤな記憶が思考をかすめた。体がガクガクとふるえ出し、瞳に涙がにじむ。 「ざっけんな、はなせって!」 「いつになったらわかってくれるの。僕は兄さん以外に興味がないんだよ。だからそろそろ許して、ね」  甘えたような、吐息まじりのその声が耳に入ってくるたび、金縛(かなしば)りにでもあったように全身がかたまっていく。 「許すわけねえだろ。あんな…」 「しょうがないじゃない。好きなんだ、心から。兄さんを手に入れたいって、ずっと思ってた」  うっとりと熱に浮かされた瞳が、鏡越しに俺を見つめてくる。どれだけにらみ付けても気にしている様子がないどころか、見つめあっていることが嬉しいとでもいうように目を細めた。  倉木の手が、俺の腰をすべり、尻、そして割れ目に差しこまれた。固く閉ざされたその部分を、指で何度もこすられる。 「あれからこっち、使った?」 「てめえ、マジで死にてえのかよ。手ぇどかせ!」  身じろぎしても、俺を抱きしめる腕はびくともしなかった。 「答えてよ。ねえ、どうなの」 「使うわけねえだろ!」  倉木の瞳が、(くら)くかがやく。 「じゃあ僕が兄さんの最後の男ってことだ」  その時、トイレの外がガヤガヤと騒がしくなった。  …誰か向かってきている? 「おいっ!いいかげんはなせ!見つかったらやばいだろ」  ところが、倉木はチラリと視線を向けるだけで、動こうとしない。 「いやだ。このままはなしたら、兄さん帰っちゃうでしょ」 「ったりめえだ!こっちはもうてめえの顔も見たくねえんだよ!」 「じゃあだめ」  そう言って俺を抱きしめたまま持ち上げると、空いていたトイレの個室にふたりで入り、鍵をかけた。 「何しやがる!」 「しっ。静かに。僕はべつに気にしないけど、兄さんはこんなとこ見られたくないだろうから」  入口のドアが開き、ゾロゾロと何人かが話しながら入ってきた。舌打ちもできず耳をすませていると、倉木がにじりよってきて、壁ぎわに体を押さえつけられる。
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