第三章

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「僕たちの父さん、大人のオモチャ作る会社を持ってるでしょ。だから僕、バレないように父さんに頼んで、兄さんの中を再現したものを作らせたんだ。けっこう人気商品だって」  俺は嫌悪感でいっぱいで、うまく返事すらできなかった。 「でも、どこの馬の骨とも知らないやつが兄さんの感触(かんしょく)を味わえるなんて、ちょっと()けるよね」 「…てめえはほんと、頭が(くさ)ってる」  両足に力を入れてふんばる。そうでもしないと、力が抜けてくずれ落ちそうだった。押さえつけられた腕がしびれて痛い。 「ちなみに、僕もいつも使ってるよ。ただ、そろそろまた本物を楽しみたいな」  (あお)るように、俺の喉仏(のどぼとけ)から上に向かってゆっくりと舌が()っていく。舌先がアゴをはなれ、そして顔の輪郭(りんかく)沿()って動いていく。  途中(とちゅう)、熱い息が肌にあたり、体の(しん)が冷えた。 「あきらめないから。今度また兄さんとするときは、ふたりでいっしょにいこうね」 「今度とかねえから。はやく失せろ」 「どうかな。チャンスってのは自分で作っていくものなんだよ、兄さん。仕事と同じだ」  ふたたび唇が合わさった。かすかに開かれた口内に舌がねじ込まれ、上あごをゆっくりとなぞられる。  思わず吐息がもれた。  油断した俺は舌を(から)めとられる。ちゅるりと吸い付かれ、そのまま引きずり出された。  (あえ)ぐように口を開く。舌の根元が痛い。倉木は味わうように俺の舌を吸いつづける。  唾液(だえき)(すす)られる音が個室にひびいて、俺は自分が喰われているんだと実感した。 「ん…や、めっ」  倉木が息を()いだ瞬間、するりと舌がはずれる。しびれて感覚がほとんどなくなっていた。倉木はすぐに、俺の口を(ふさ)ぐ。まるで、パズルのピースみたいにぴったりと合わさった。  俺を見下ろす目は(またた)きひとつせず、俺の反応すべてを焼き付けるように見開かれていた。  口内に倉木の唾液(だえき)がおりてきて、ゆっくりと俺を犯していく。  酸素が足りない。圧倒的に。苦しくて、体に力が入らない。  鼻も口も(ふさ)がれたまま、はげしく肩で息をする。(あえ)いでも、倉木が吐き出す息をそのまま取り込んで、俺の意識は少しずつ薄れていく。  もう暴れる体力も残っていなかった。  最後に一度だけ倉木をにらみつけると、がくりと意識を手放した。  倉木は脱力する入江の腰を抱き、壊れものでもあつかうようにそっと(ほほ)をなでる。 「兄さんは僕のものだ。もう二度と、僕以外を受け入れちゃダメだよ」  その瞳に入江だけを映しながら、(たの)しげに口元をゆがめた。
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