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「僕たちの父さん、大人のオモチャ作る会社を持ってるでしょ。だから僕、バレないように父さんに頼んで、兄さんの中を再現したものを作らせたんだ。けっこう人気商品だって」
俺は嫌悪感でいっぱいで、うまく返事すらできなかった。
「でも、どこの馬の骨とも知らないやつが兄さんの感触を味わえるなんて、ちょっと妬けるよね」
「…てめえはほんと、頭が腐ってる」
両足に力を入れてふんばる。そうでもしないと、力が抜けてくずれ落ちそうだった。押さえつけられた腕がしびれて痛い。
「ちなみに、僕もいつも使ってるよ。ただ、そろそろまた本物を楽しみたいな」
煽るように、俺の喉仏から上に向かってゆっくりと舌が這っていく。舌先がアゴをはなれ、そして顔の輪郭に沿って動いていく。
途中、熱い息が肌にあたり、体の芯が冷えた。
「あきらめないから。今度また兄さんとするときは、ふたりでいっしょにいこうね」
「今度とかねえから。はやく失せろ」
「どうかな。チャンスってのは自分で作っていくものなんだよ、兄さん。仕事と同じだ」
ふたたび唇が合わさった。かすかに開かれた口内に舌がねじ込まれ、上あごをゆっくりとなぞられる。
思わず吐息がもれた。
油断した俺は舌を絡めとられる。ちゅるりと吸い付かれ、そのまま引きずり出された。
喘ぐように口を開く。舌の根元が痛い。倉木は味わうように俺の舌を吸いつづける。
唾液を啜られる音が個室にひびいて、俺は自分が喰われているんだと実感した。
「ん…や、めっ」
倉木が息を継いだ瞬間、するりと舌がはずれる。しびれて感覚がほとんどなくなっていた。倉木はすぐに、俺の口を塞ぐ。まるで、パズルのピースみたいにぴったりと合わさった。
俺を見下ろす目は瞬きひとつせず、俺の反応すべてを焼き付けるように見開かれていた。
口内に倉木の唾液がおりてきて、ゆっくりと俺を犯していく。
酸素が足りない。圧倒的に。苦しくて、体に力が入らない。
鼻も口も塞がれたまま、はげしく肩で息をする。喘いでも、倉木が吐き出す息をそのまま取り込んで、俺の意識は少しずつ薄れていく。
もう暴れる体力も残っていなかった。
最後に一度だけ倉木をにらみつけると、がくりと意識を手放した。
倉木は脱力する入江の腰を抱き、壊れものでもあつかうようにそっと頬をなでる。
「兄さんは僕のものだ。もう二度と、僕以外を受け入れちゃダメだよ」
その瞳に入江だけを映しながら、愉しげに口元をゆがめた。
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