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もうパーティもお開きの時間だというのに、いっこうに緋希が出てこない。
メッセージを送っても返信もないすらないのは、さすがに様子がおかしいと思った。
心配になった俺は車をおりて受付に向かうと、緋希はすでに会場にはいないという。
「入江さんなら、たしかパーティの途中で、俳優の倉木さんに支えられながら出ていかれましたよ。かなりぐったりしたご様子でしたけれど」
「ええっ?!そうなんですか。えっと、倉木さんの連絡先ってご存知ですか」
受付の女性たちは困った顔で首を横にふった。
途方に暮れていると、後ろから声をかけられる。ふりむくと、ふわふわの栗色の髪をたらした女性が立っていた。
「あれ?倉木くんのこと探しているんですか。あなただれ?」
「ええと、私は入江緋希のマネージャーで…」
「ああ!入江くん、今日具合悪そうでしたね。だいぶ前に、倉木くんが家まで送るって連れて帰ってましたけど」
「だいぶ前に?そんな、緋希からは、何も連絡なかったのに」
なんだか嫌な胸騒ぎがする。
…というか、倉木ってあの倉木慎だよな。たしか緋希と共演NGって社長が言ってなかったっけ。
「だって入江くん、ほとんど意識なさそうでしたもん。酔っちゃったのかな」
「事情はわかりました。きっと介抱してくださったんですね。倉木さんにお礼を言いたいのですが、連絡先はご存知ですか」
女性はウインクをしてスマホを取り出すと、どこかに電話をかけた。すぐに相手が出たようで、女性は笑顔で話しだす。
「もしもし倉木くん?いま、入江くんのマネージャーがきてて、倉木くんと話したいって」
女性からスマホを手渡された。受け取って耳にあてる。
「あの、倉木さんですか?私、入江のマネージャーの滝です。入江を運んでくださったみたいで、ありがとうございます。というか、ご迷惑をおかけしました」
少しの間があって、かすかに笑ったような吐息がもれ聞こえた。
「迷惑だなんて、とんでもない。僕、ずっと入江くんとゆっくり話したかったんです。だから今日はよい時間を過ごせました」
倉木の声はどこか気怠げで、なまめかしくもあった。電話をしているだけなのに、なぜかどぎまぎしてしまう。
「そ、うですか。ならよかった。今どちらに、というか緋希は近くにいますか?」
「今は僕の家にいます。入江くんは…目の前にいますよ。つかれているみたいで、寝ちゃってたのでうちに運びました。ほんとは入江くんの家に送りたかったけれど、家を知らなかったもので」
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