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朝、目が覚めると、まず感じたのは、腰の痛みとひどい不快感だった。
そのまましばらく、ベッドの上でぼうっと天井を見上げていた。だんだんと思考がクリアになっていくにつれ、昨夜の記憶がよみがえってくる。
俺は、反射的にベッドから飛び起きた。
見渡すと、そこは自分の部屋だった。けれど、どうやって帰ってきたのか記憶がない。
…昨日は俺、トイレで倉木に会って、そっから気を失って。それから?なんで俺は家にいるんだ。
自分の状況がわかってくると、急速に頭がまわり出した。なんだかイヤな予感がした。
倉木は俺の家の場所を知らないはずだ。なら、あのあとは、迎えにきていたはずの滝に俺をたくして送らせでもしたのだろうか。
…いや。あいつが、そんな素直なことをするわけがない。
ふと、今感じている不快感の正体が気になって、俺は自分の体の感覚をとぎすませる。
それは、どうやら自分の下半身からきていた。なんとなく、へその下あたりをさわってみると、濡れた布でも押しあてられているような気持ちの悪さを感じた。
…なんだ?これ。
前をくつろげて内側を確認したら、着ていたボクサーパンツが半分濡れたような状態で肌にはりついている。端をつまんで持ち上げると、中は白い液体にまみれて汚れていた。
怒りで、指先がふるえてくる。
すぐにスマホを手に取り、ブロックを解除して倉木に電話をかけた。倉木はなかなか出ず、まるで焦らすようにコール音は鳴りつづける。
イライラが頂点に達しそうなところでやっと通話がつながり、俺は開口一番に怒鳴りつけた。
「てんめぇっ…!マジで死にてえらしいな。俺に何しやがった」
「うわ、だいぶ熱烈なモーニングコールだね。兄さん」
倉木はクスクスと笑っている。
「うるせえゴミが。こっちはお前みたいなクズとムダなおしゃべりする気ねえんだよ。これ、なんなんだよ。ざけんじゃねえぞ」
「これって何のこと?はっきり言ってくれなくちゃわかんないよ」
怒りは限界をこえ、もはや発狂でもしそうだった。スマホをにぎる手からミシミシと音がなっている。
「この、俺の下半身にぶちまけられてる汚ねえもんは、てめえのかって聞いてんだよ!」
「ああ、それ僕のだってわかるんだ。うれしいなあ」
「他に誰がいんだよ!頭イカれすぎだてめえ。俺に、どこまで何をしやがった!」
「知りたい?」
いやにもったいぶった言い方をしやがる。
鼻にかかった声が、耳にまとわりついてくるようだった。過去の出来事を思い出し、一瞬たじろぐ。電話越しで倉木は爆笑した。
「わかったよ。じゃあいったん電話切るけど、まだブロックしないでね」
そう言って通話を切ると、一件の動画が送られてきた。
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