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竿は反り返ったままビクビクと痙攣している。
倉木は動きを止めると、自身のスラックスのファスナーをおろした。ローションにぬれた手を気にせず前をくつろげ、ボクサーパンツをずり下げる。
『はは、ちょっと出ちゃってるし』
下からあらわれたのは、真っ赤に色づいた欲の象徴だった。
血管がいくつか浮き出たそれは、力強く反り上がり、美しく割れた腹筋に先端が口づけをしている。
そこにいるのは、テレビで見せるような好青年ヅラとはかけ離れた、本能のままの男の姿だった。
倉木はボタンを引きちぎるようにワイシャツを脱ぐと、汗のしたたる黒髪をかきあげる。
うっすらとほほ笑んだまま、人差し指で自身の高ぶった先端をいちど擦った。白く糸を引いた液体が、光に反射する。
そのぬれた指先を、俺の後ろの穴につぷ、と突きさし、中に塗りこめるようにゆっくりと指を回転させた。
画面の中の俺はぐったりとして、なんの反応もしなかった。
『このままじゃあ、まだ挿れるのはムリだからね。今日は、マーキングだけ』
倉木のまなざしはひどく穏やかで、異様だった。人差し指を引き抜くと、そのまま口に含み、うっとりとした顔でしゃぶる。
『これは呪いだよ、兄さん。僕たちが永遠に愛しあうためのね。相手の体液を取り込んで、魂と肉体を互いに縛りあうんだ』
芝居がかったセリフだが、この男の目は本気だった。
倉木は俺の両足を持ち上げ、そろえて大事そうに抱きかかえる。まるで、オムツでも取り替えられる赤ん坊のような格好になった。
白い太ももの間に、倉木がそそり立ったものを差し込む。恍惚の表情を浮かべ、腰を前後に動かしはじめた。
『ああ、兄さん。心から愛してる。あなたを、他の誰にも渡さないよ』
イスがギシギシと音を立てる。情欲にかられた倉木の瞳は、ただ一心に俺を見下ろしていた。
倉木の荒い息づかいは、少しずつ喘ぎに変わっていく。やがて、大きく腰を打ち付けると、何度も痙攣しながら動きが止まった。
カメラが俺をズームにする。その腹の上には、大量の白濁が吐き出されていた。
動画はそこで終わった。
俺はスマホを思いっきり壁に叩きつける。気が立って我を忘れそうだった。にぎり込まれた手は鬱血し、真っ白に色を失っている。
すぐにスマホが鳴った。倉木からだった。
「やあ。どうだっ…」
「殺す」
自分でもおどろくくらい、静かで冷徹な声だった。
「人の体を好き勝手できて満足かよこのど変態野郎」
「まさか!だってまだ、僕は手に入れてないからね」
「はあ?あれ以上まだ何が足りないってんだよ」
「兄さんの心だ」
俺は毛の逆立ったネコのように、荒い呼吸を繰り返す。この血のつながった弟のことがさっぱり理解できなかった。
「僕はね、兄さんにも同じくらい僕を愛して欲しいんだよ」
「そんなことがこの現実に起こるわけねえだろうがカス」
電話の奥で、倉木は笑う。
「きっと、手に入れてみせるよ。兄さんは身も心も永遠に僕のものだから」
その声があまりにも自信に満ちていて、俺は、言いようのない不安でしばらく呆然とするしかなかった。
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