第三章

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 竿は反り返ったままビクビクと痙攣(けいれん)している。  倉木は動きを止めると、自身のスラックスのファスナーをおろした。ローションにぬれた手を気にせず前をくつろげ、ボクサーパンツをずり下げる。 『はは、ちょっと出ちゃってるし』  下からあらわれたのは、真っ赤に色づいた欲の象徴(しょうちょう)だった。  血管がいくつか浮き出たそれは、力強(ちからづよ)()り上がり、美しく()れた腹筋(ふっきん)に先端が口づけをしている。  そこにいるのは、テレビで見せるような好青年ヅラとはかけ離れた、本能のままの男の姿だった。  倉木はボタンを引きちぎるようにワイシャツを脱ぐと、汗のしたたる黒髪をかきあげる。  うっすらとほほ笑んだまま、人差し指で自身の高ぶった先端をいちど(こす)った。白く糸を引いた液体が、光に反射する。  そのぬれた指先を、俺の後ろの穴につぷ、と突きさし、中に塗りこめるようにゆっくりと指を回転させた。  画面の中の俺はぐったりとして、なんの反応もしなかった。 『このままじゃあ、まだ()れるのはムリだからね。今日は、マーキングだけ』  倉木のまなざしはひどく穏やかで、異様だった。人差し指を引き抜くと、そのまま口に含み、うっとりとした顔でしゃぶる。 『これは(まじな)いだよ、兄さん。僕たちが永遠に愛しあうためのね。相手の体液を取り込んで、魂と肉体を互いに(しば)りあうんだ』  芝居(しばい)がかったセリフだが、この男の目は本気だった。  倉木は俺の両足を持ち上げ、そろえて大事そうに抱きかかえる。まるで、オムツでも取り替えられる赤ん坊のような格好(かっこう)になった。  白い太ももの間に、倉木がそそり立ったものを差し込む。恍惚(こうこつ)の表情を浮かべ、腰を前後に動かしはじめた。 『ああ、兄さん。心から愛してる。あなたを、他の誰にも渡さないよ』  イスがギシギシと音を立てる。情欲(じょうよく)にかられた倉木の瞳は、ただ一心に俺を見下ろしていた。  倉木の荒い息づかいは、少しずつ(あえ)ぎに変わっていく。やがて、大きく腰を打ち付けると、何度も痙攣(けいれん)しながら動きが止まった。  カメラが俺をズームにする。その腹の上には、大量の白濁(はくだく)が吐き出されていた。  動画はそこで終わった。  俺はスマホを思いっきり壁に叩きつける。気が立って我を忘れそうだった。にぎり込まれた手は鬱血(うっけつ)し、真っ白に色を失っている。  すぐにスマホが鳴った。倉木からだった。 「やあ。どうだっ…」 「殺す」  自分でもおどろくくらい、静かで冷徹(れいてつ)な声だった。 「人の体を好き勝手できて満足かよこのど変態野郎」 「まさか!だってまだ、僕は手に入れてないからね」 「はあ?あれ以上まだ何が足りないってんだよ」 「兄さんの心だ」  俺は毛の逆立ったネコのように、荒い呼吸を繰り返す。この血のつながった弟のことがさっぱり理解できなかった。 「僕はね、兄さんにも同じくらい僕を愛して欲しいんだよ」 「そんなことがこの現実に起こるわけねえだろうがカス」  電話の奥で、倉木は笑う。 「きっと、手に入れてみせるよ。兄さんは身も心も永遠に僕のものだから」  その声があまりにも自信に満ちていて、俺は、言いようのない不安でしばらく呆然(ぼうぜん)とするしかなかった。
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